研究課題/領域番号 |
19K13580
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
郭 薇 静岡大学, 情報学部, 准教授 (80733089)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 弁護士広報 / 法情報 / 専門職 / メディア / 法アクセス |
研究実績の概要 |
2021年度における研究の目的は、前半期の研究成果を踏まえた上で、日本における弁護士関連の状況環境及び弁護士(会)による情報発信の現状を調査することにあった。Covid-19対応が長引いているため、弁護士発信の研究や実践を行っている国内外の関連者との対面的な意見交換はできなかったが、2000年から2021年までに弁護士関連の記事(朝日新聞・日本経済)の言説分析、1000人規模の弁護士情報接触に関するオンライン調査、そして全国各地の弁護士会の情報発信に関するオンライン聞き取り調査を実施した。これらの調査から日本における弁護士の情報発信の現状と課題について一定の知見を得た。上記の調査結果の公表に向けてデータの整理および検討を行っている。 調査の主な成果は、次のものになる。①2000年以降、量的増加が見られないものの、弁護士関連の記事に内容の文脈・主題の多様化は明確に確認された。そして、弁護士への捉え方に対してメディアの特性が影響を与えるようである。②インターネットを活用している人の中でも、日常的に弁護士情報と接触することが少ない、また、そこで専門職の権威性や公益性を求める傾向は依然として強い。③弁護士(会)の現場において、情報発信活動の実施が一般化しつつも、その効果や通常の業務との連携が曖昧である。 そして、理論面の検討として、職業社会学の文献を収集・整理しながら、現代社会の職業制度と公共性から弁護士業における情報発信の理論的な位置づけを再考しようと試みた。その検討から、伝統的に顧客獲得の手段としての意義以外に、専門職の正統性維持と情報公開との間の緊張関係という新たな視点を加えることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度においては、日本における弁護士の情報発信の現状を探求するために、①マスメディアで掲載された弁護士言説に関する調査、②弁護士会の広報活動に調査を予定している。 ①について、日本社会の情報環境や弁護士業の構造的な変化が見られる2000年以降の新聞記事を研究対象とし、「朝日新聞」と「日本経済新聞」に掲載された総数10000件以上の記事を網羅的に収集し、テキストマイニングの手法に基づく記事の傾向や構成の分析を行った。計画当初は2010年以降の記事のみを分析する予定であったが、より弁護士情報の転換点あるいは推移を解明するために分析対象の範囲を拡大した。そして、情報の受け手の状況に関する調査も加えて、社会心理学者と共に大規模のオンライン情報接触調査を実施した。 ②について、ホームページやSNSにて地方弁護士会の広報体制そして広報活動の情報収集し、すべての地方弁護士会に調査依頼し、協力いただける弁護士会の関係者に対して半構造化インタビューを実施した。 以上より、本研究は概ね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度において、2021年度の研究結果を踏まえて、論文を公表する準備を行う。その過程においては、さらに仮説を検証するに追加調査や文献調査を必要に応じて行う予定である。とりわけ、弁護士情報の一般接触に関する本格な先行研究がない状況で行った2021年度のオンライン情報接触調査は、予備調査的な性質もあり、弁護士情報への接触歴・ニーズや法使用歴といった基本情報の収集に徹した。これから、さらに弁護士への信頼と情報発信との関係を検討するために追加調査を実施したいと考えている。 そして、弁護士専門メディアに対する調査を行い、一般向けのマスメディアと業界色の強い専門メディアとの違いや、編集制作側の視点から弁護士による情報の価値と限界を検討する。調査の対象として、弁護士会主導に制作が行われた地方のラジオ番組と、日本最大の弁護士情報サイド「弁護士ドットコム」のニュースサイドに対するフィールド調査を行う。記事・番組制作現場の状況を明らかにし、社会や弁護士業において弁護士発信の意義と課題について検討する。 最後に、4年間の調査結果を取り纏め、弁護士の情報発信とそれをめぐる評価・管理から、情報化社会における法律専門職の変容について一定の知見を提供する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度に予定していた国内外の出張がCovid 19感染拡大など予期しない事情の影響により中止、あるいはオンライン参加になったため、当初予定していた出張旅費に残額が生じた。 2022年度において、出張が可能の場合、前年度の現地調査を再開することで、予定通り出張旅費として使用する。Covid-19の影響で出張が困難の場合、追加オンライン調査の実施に伴う費用に充てる。
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