研究課題/領域番号 |
19K13582
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
進藤 眞人 早稲田大学, 法学学術院, その他(招聘研究員) (30802061)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 環境法学 / 公法学 / アカウンタビリティ / 議会オンブズマン |
研究実績の概要 |
本研究は、環境行政意思決定のアカウンタビリティを確保するための法的枠組の発展に対して、議会オンブズマンおよび環境オンブズマン(O/EO)を中心とする公的オンブズマンが果たす役割の本質を明らかにすることを目標としている。本研究の対象となる行政府のアカウンタビリティの射程は、行政府の執行部門の活動の正当性や妥当性である。O/EOを中心とする公的オンブズマンは、このような行政府のアカウンタビリティを確保するための審査機関としては、20世紀後半に世界的な普及が始まった比較的新しい機関である。伝統的な審査機関である裁判所や審判所と公的オンブズマンの違いは、前者が個別の事件解決を通じて目的達成を図るのに対して、後者は構造的問題の解決を通じて目的達成を図る点にある。本研究は、このような公的オンブズマンの特性が、アカウンタビリティ確保の仕組全体に与える影響の解明を志す。 本研究課題の達成には、環境行政意思決定のアカウンタビリティ確保に際して、公的オンブズマンの特性がどのように発揮されるかに関する調査分析が必須となる。この分野に関する研究の蓄積は余り豊富ではないため、文献調査のみに依存することはできず、公的オンブズマンを有する法域に於ける現地調査を多く行うことを予定していた。しかし、コロナ禍の影響により、海外調査が行えない期間が3年間続いたので、極力海外調査に頼らずに公的オンブズマンの特性を明らかにすることに注力し、事例分析を通じての環境分野に於ける行政意思決定のアカウンタビリティ確保に公的オンブズマンが果たし得る役割の検証や、行政府による苦情処理制度と公的オンブズマンの役割の差異の解明などに取り組んできた。 令和4年度は、同年中のコロナ禍の悪影響の収束を見据えて、本研究の完遂に不可欠な海外調査の実施を計画したが、時期尚早であり、調査の実施は令和5年度に持ち越された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
令和4年度における本研究の進捗状況は、コロナ禍の影響が予想以上に長引いたことによって、予定していた海外調査を実施することができず、既に生じていた遅れを取り戻すことができなかった。しかし、調査対象の公的オンブズマンの役割を質的に一層掘り下げることを通じて、研究の中核部分の解明への歩みを着実に進めている。 まず、令和3年度から引き続き、近年公的オンブズマンが重視する、施策の実効性・公正性および人権への配慮という指標を用いての事例分析を通じて、環境分野に於ける行政意思決定のアカウンタビリティ確保に公的オンブズマンが果たし得る役割の検証を行った。事例として取り上げたのは、2011年の東電原子力災害および1986年のチェルノブイリ原子力災害の後始末である。この論考は、令和4年7月に国際学会で発表し、そのフィードバックを反映させて、英文論文として執筆して学術誌に投稿し、現在査読中である。 次に、公的オンブズマンが環境行政意思決定のアカウンタビリティ確保に果たす役割の本質を明らかにする際に、混乱を招きやすい、類似機関の果たす役割との区別を明確化するために、比較研究を行った。具体的には、公的オンブズマン以外の裁判所や審判所の構成が類似した日本とデンマークを対象に、行政府による苦情処理制度と公的オンブズマンの役割の差異を明らかにすることに取り組んだ。本論考は、令和4年7月に国際学会で発表し、そのフィードバックを反映させて、英文論文として執筆中である。 更に新たに、本研究の主要課題である、公的オンブズマンの特性がアカウンタビリティ確保の仕組全体に与える影響の解明に取り組み始めた。具体的には、公的オンブズマン特有の機能として名高いが、従来余り研究のなされていなかった、構造的問題解決に用いられるフォローアップ機能の役割を解明するための研究準備に取り掛かった。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の、公的オンブズマンの特性が、アカウンタビリティ確保の仕組全体に与える影響の解明という、目的達成のためには、これまでの研究の蓄積が薄い、公的オンブズマンの特性がアカウンタビリティ確保に及ぼす影響を解明する必要が有る。つまり、文献調査のみに頼っては、本研究の目的を達成することは望めないので、現地調査を実施する切実な必要がある。このような本研究の特質故に、海外での現地調査が出来なかった過去3年間により、研究の遅延を強いられたことは否めない。 幸いにも令和5年度は、過去3年間に渡って続いた、コロナ禍による国際移動への悪影響が漸く収束する見通しとなった。但し、この3年間の年月の経過にコロナ禍前後の経済状況の変化の大きさを加味すれば、研究開始当初の計画を墨守することは最早現実的ではない。そこで、時間の制約と経済状況の悪化を踏まえて、残された短い研究期間内で最大限の研究成果を上げられるように海外調査計画を見直し、厳選した対象国に於ける現地調査を行う計画を立てている。既に令和4年度から、潜在的受入協力機関との協議を開始していた甲斐もあり、令和5年度は、比較的速やかに現地調査を実施できる見込みである。具体的には、まず5月から6月にかけて、カナダにおける現地調査の実施を予定している。 また、コロナ禍の下で現地調査が出来ない中続けてきた、公的オンブズマンの特性を明らかにするための研究二本に関しては、令和4年度に3年ぶりに再開された国際学会での発表の際に受けたフィードバックを反映させて、成果である英文論文での発表を順次行っていく予定である。 加えて、本年度に実施する現地調査に関しても、7月末に開催予定の国際学会での研究発表を行うことを予定している。そして、その場で受けるフィードバックを反映させて、本研究を完結させる論文として作成し、学会誌に発表することを予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和4年度は、一昨年度末から始まったコロナウィルスの世界的なパンデミックは落ち着きを見せ始めたものの、ロシアによるウクライナ侵攻が生じたこともあり、研究に必須の国際移動への悪影響が速やかに除去される状況にならずに、研究環境に大きな悪影響を及ぼした。本研究に於いては、国際線が飛ばないことにより、現地に赴き最新の情報収集を予定していた国際会議への出席をオンラインで行わざるを得なかった。また、予定していた国外での現地調査も。受入機関のコロナ対応方針のため、延期を余儀なくされた。こうした影響を受け、当初使用予定であった予算額を更に次年度に回すことになった。 令和5年度は、漸く世界的規模でコロナウィルス禍の影響が収束する見通しであることから、可能な限り多くの国際学会発表および現地調査を行って予算を執行すべく、鋭意準備を進めている。但し、コロナ禍に加えてロシアによるウクライナ侵攻の影響もあったため、コロナ前と比べると航空運賃を始めたとした調査費用が高騰しているので、予算に鑑みて、調査対象国数は当初予定から絞らざるを得ない。従って、最も効果の高い法域を優先して現地調査を実施する予定である。
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