2019年度・2020年度における日仏の知的財産権を巡る担保化の状況調査を経て、2021年度は総合的な検討を行った。すなわち、日本において、知的財産権に担保を設定する法制度が資金提供者・調達者の状況や需要を受け止めたものとなる今後の設計を模索した。 まず、前年度までに明らかとなった新たな担保化の手法として、ブロックチェーン上のトークンと紐付けた形で無体の財を担保化する手法につき、論文作成と学会報告を行った。また、前記トークンと紐付けた形で無体の財(特に知的財産権)から生じる収益を担保的に活用する手法とその実現可能性を研究会にて報告した。上記のほか、伝統的な担保物権による知的財産権の担保化手法として、単に個別の財産権を担保に供するのではなく、まとまった単位の財産を担保化するフランスの法制度を参照し、日本の包括的な担保制度のあり方を検討した。 以上の検討をふまえ、日本においては知的財産権の類型ごとに、担保化に適した手法が異なる可能性を見いだした。たとえば、知的財産権のうち、著作権であれば、トークンと紐付けた形での担保化に活用の余地があり、逆に、特許権、実用新案権、商標権または意匠権のような産業財産権であれば、当該産業に関連する諸財産と当該産業財産権をまとめた形で包括的に担保化することが適切であるとの結論に至った。 このように、本研究では現時点において活用の制度的基盤が整っていない知的財産権の担保化に関し、これを進めるための制度として、最新の技術まで視野に入れ、財産権毎に担保化手法の変化を見いだした。これは知的財産権を保有する多様な企業が資金調達者となる際、企業のおかれた状況、企業のとりうる手段及び企業の需要を受け止める多様な設計を示すだけでなく、各種担保化手法が日本で採用可能なものであることを提示することで、資金提供者にとっても明確性と予測可能性をもたらす意義を有するといえる。
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