研究課題/領域番号 |
19K13584
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研究機関 | 福岡大学 |
研究代表者 |
谷川 和幸 福岡大学, 法学部, 准教授 (40584032)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | リーチサイト |
研究実績の概要 |
2019年度はWIPO著作権条約とEU指令における「公衆への伝達権」の扱いについての整理を行った。公衆への伝達権の解釈に関してこの期間に公表された欧州司法裁判所の先決判決としてTom Kabinet事件判決を、また欧州司法裁判所の判例法理を適用したイギリスのTuneIn判決を、それぞれ分析・研究した。Tom Kabinet事件では、これまで有体物において承認されてきた消尽法理がインターネット流通に適用されるかが争われており、技術内容に応じた規制の細分化のあり方として示唆的である。 あわせて、欧州では著作権に関する新たな指令(デジタル単一市場指令)が制定されたため、それに関する研究も行い、ALAI JAPAN 研究大会2019にて研究報告を行った。 またわが国でも公衆送信権の解釈に関する重要な事例として、リーチサイト「はるか夢の址」刑事事件の判決が下されたことから、これを詳細に分析し、谷川和幸「漫画海賊版サイト「はるか夢の址」刑事事件」福岡大学法学論叢64巻2号567として公表した。リーチサイト規制に関してはわが国では立法の議論も盛んに行われ、著作権法改正が予定されている。そこでは、リーチサイトの概念を「侵害著作物等利用容易化ウェブサイト等」として非常に詳細に定義する一方で、URLやウェブサイトという概念についても、「送信元識別符号等」「ウェブサイト等」という新たな用語を用いて対象の捕捉漏れがないようにやや包括的な定義が試みられており、技術的中立性の観点から興味深い法律案となっている。この法律案に関する研究成果は「法律時報」7月号において公表予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画のとおり、WIPO著作権条約およびEU指令の分析について、おおむね順調に進展している。もっとも、この問題に関し近時刊行された重要な書籍をフォローできていないため、この点は次年度において継続的に研究を進める必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
直近に刊行された書籍のフォローを行ってWIPO著作権条約およびEU指令における公衆への伝達権の扱いについての研究を深化させるとともに、アメリカおよびカナダの判例の分析に着手する。とりわけカナダにおける最高裁判決を契機とした議論の蓄積を分析することが主眼となる。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費として支出を予定していた図書購入費については、今年度の研究遂行の上で重要度の高いものは図書館等で利用可能であったため、次年度において、次年度の研究分野に関する図書と一括で発注することとした。旅費については複数回の研究会出張を予定したものの、2月以降、新型コロナウイルス感染拡大の影響で各地の研究会が軒並み中止となったために支出の必要がなくなった。次年度は、次年度の研究分野に関する図書とあわせて今年度の研究分野をフォローする図書を購入することで物品費を支出する。旅費については研究会が開催されれば支出することになるが、現時点では状況は流動的である。
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