最終年度である2021年度も引き続き、この期間に現れた新たな紛争・裁判例の分析を行った。 まず欧州では、VG Bild-Kunst事件欧州司法裁判所先決判決の登場により、フレーミングの方法で著作物を表示させる行為が「公衆への伝達」に当たるかにつき、議論のさらなる深化がみられた。米国においてもInstagramに投稿された写真を第三者サイトにおいて同様の手法で表示させる行為につき、展示権の権利範囲及びライセンスの効力をめぐって、McGucken v. Newsweek LLC事件等複数の裁判例が現れており、展示権に関する伝統的な解釈(第三者サイトのサーバにおいて複製されている場合に限って展示権の侵害となるとするServer test)を採用しない新たな動向が見られることに着目して検討を行った。 わが国においても、海賊版サイト「漫画村」に関し、リバースプロキシの設定行為の著作権法上の扱いが論点となった刑事事件(福岡地判令和3年6月2日)が公刊されたほか、同サイトに広告料を提供した広告代理店の責任が問題となった民事事件(東京地判令和3年12月21日)が現れるなど、インターネット上の情報流通をめぐる著作権法の規制のあり方を検討するに当たり注目すべき事例の集積が見られた。これらの研究成果の一部は、2022年5月開催の判例研究会における報告として公表した。 研究期間全体を通じて実施した研究の成果は現在、単著としてまとめる作業を行っており、近いうちに公刊予定である。上述のように近時増加している類型の紛争に関して、現在の著作権法による規律で十分であるかを、欧州及び英米法国の著作権制度との比較を通じて考察したものとして重要性を有する成果である。
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