研究課題/領域番号 |
19K13586
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
内藤 寛子 東北大学, 東北アジア研究センター, 助教 (90801978)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 中国共産党 / 人民法院 / 権威主義体制 / 権威主義的法治 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、なぜ権威主義体制下の政治指導者は「法治」を選択するのか/しないのか、という「法治」の条件を解明することにある。本研究は、司法機関の機能の拡充を「法治」と定義し、一党体制型の権威主義体制の代表的事例である中国共産党のガバナンスに注目する。 以下の研究の進捗状況でも説明するように、今年度は計画通りに研究を進めることができなかったため、これまでの研究成果を対外的に発信することに重点を置き活動を行った。第一に、ベルリンとハワイで中国共産党と人民法院の命令的指導関係に関する研究報告を行った。特にハワイでは、中国共産党が現体制の持続を目的に推し進めた「法治」の実現という政策目標が中国共産党の思惑通りに進んでいない状況を裁判官の専門職業化政策に焦点を当て報告した。 第二に、行政機関や議会、軍や国有企業といったそれぞれの国家機関を研究している若手研究者にご協力いただき、国家能力の強化というキーワードで編著を執筆した(Hiroko Naito and Vida Macikenaite(eds.), State Capacity Building in Contemporary China, Springer.)。 第三に、手元にある資料を基に、各地域の人事情報をまとめたデータセットを整理した。もともと中央レベルでの人事に関するデータセットはすでにまとめていたが、それに倣いながら地方レベルの人事についても拡充した。このデータに基づく分析は2020年度の課題である。また、地方レベルになると人事の変遷を追えない人物も出てきているため、この課題については現地調査を実施することで克服したい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
現在の進捗状況は非常に遅れている。その理由として、当初計画していた現地調査を行えていないからである。現地調査が滞っている理由として、第一に2019年春頃から中国当局の規制が厳しくなったことがあげられる。現地調査を実施するうえで、現地での協力者とのコミュニケーションは必要不可欠であるが、このような状況にあったことから、双方の安全性を鑑み、現地調査を自粛した。 第二に、2020年初めから調査の再開を見通してたが、1月中旬から武漢を中心にCOVID-19が発生したためである。その後、その規模は中国のみならず世界規模に拡大しており、中国のみならず他の地域への渡航も厳しい状況になった。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度もいつから現地調査が可能なのか見通しがついていない。2020年度内に調査が可能である場合、地方レベルの人事データセットの拡充作業を行うとともに、現地の人民法院制度改革に関連する資料の収集を行い、それぞれの地域の政策決定過程を追跡する。 仮に、現地調査の見通しがつかない場合、手持ちの資料および日本で閲覧できる資料を用いながら研究を進めていけるよう試みる。特に以下二つのテーマについて研究を進めることにする。第一に、「法治」をめぐる中国共産党と香港の関係についてである。中国共産党はソ連の法理論を継承し、法律は「統治の道具」ととらえている一方で、香港はイギリスの植民地支配の経験から英米法を基礎とした法体系を有している。この高い法治は香港の民主を支える基礎であったが、現在の中国香港関係を鑑みると、香港の民主および法治は非常に動揺している。この点から、中国共産党は香港返還交渉時から香港の法治をどのように見通していたのか、また近年それがどのように変化しているのか/あるいはしていないのかという点について考察する。 第二に、人民法院が公開している裁判文書を利用し、2014年以降の環境公益訴訟がどのように受理され、どのような裁決が決定されたのかを整理する。これまで、2014年の環境保護法の改正過程を追跡した研究を行ってきたが、それが現場でどのように運用されているのかは明らかにしていない。公開されている文書を基に、環境問題に関する訴訟を現場レベルの人民法院や裁判所がどのように対処しているのかを明らかにする。
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