日本と韓国は、同じく家族主義福祉レジームに分類される。しかし、幼児教育と保育の利用料を支援する幼保無償化という政策は、それぞれ経済政策と家族政策として位置づけられることで実現した。今年度はその政治過程を言説的制度論から分析した。権力が分散する政治制度を持つ日本では、政治エリート間で合意を形成するための調整型言説がより重視される。そこで、保守勢力の与党議員を説得するために、子どもを持つ家族(とりわけ女性)に恩恵が及ぶ幼保無償化が、経済活性化につながる経済政策であることが賢明にアピールされた。また、政策の対象も母親が労働力として経済活動を支えている世帯に絞られた。他方、権力が集中する韓国においてより重視されるのは、政治エリートが国民を説得するために用いる伝達型言説である。有権者の約半数を占める女性に加えて、さらに多くを占める若年層は、普遍的福祉を掲げる革新勢力を力強く支持していた。それゆえに、幼保無償化は子どもを持つ家族を支援するための政策として位置づけられ、いかなる条件も設けない普遍的政策として成立したのである。日韓における幼保無償化の政治過程を検討することで、日韓の違いを明確にし、その要因を政治制度の違いから考察することができたことに意義がある。
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