本研究は、近年の福祉国家で指摘される「再分配のパラドクス」と「社会的投資のパラドクス」という2つのパラドクスについて、これらが家族政策の政策過程にも表れているのかを2010年代のフランス家族政策から検討することが目的である。 ここでは、2つのパラドクスの影響から現代の家族政策において「適用除外の政治」が発生しているという仮説を立てている。非正規雇用などを中心に雇用が不安定になるなか、貧困率の上昇に直面している政府であれば、家族政策で社会的投資の側面が強い保育サービスよりも生活の経済的支援の足場となる現金給付(フランスでは家族手当)を重視することになるだろう。その際、再分配への支持が高まるならば、政権与党はこうした政策を打ち出して支持率の上昇を期待することになる。ただし、既に普遍主義を実現している家族手当は部分的に削減しても再分配の支持には影響しないことが指摘されている。一方で、予算削減にも直面する政府は家族手当を削減することも考えるが、所得移転の規模が大きいほど貧困率は低くなると想像できるため、高所得層に限り給付額を削減するという「適用除外の政治」を選好することになるといえそうである。 2022年度は、年度末に日本政府が児童手当の所得制限を撤回する方針を示したことで普遍主義を維持しつつ現金給付を削減するという「適用除外の政治」が現実政治のなかで示されたことに注目しつつ、保育サービス給付との関係を中心に成果公表を行った。宮本太郎編『自助社会を終わらせる』に「すべての家族への支援をどう進めるか」という論文を公表する以外に、日本EU学会や北海道大学社会保障法研究会で報告を行った。
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