研究課題/領域番号 |
19K13604
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
工藤 文 早稲田大学, 政治経済学術院, その他(招聘研究員) (80779067)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 中国 / テキスト分析 / 内容分析 / 新聞 / メディア / 権威主義 |
研究実績の概要 |
2020年度は中国の新聞を対象にテキストデータの分析と新聞社の所有構造に焦点を当てた分析の2つの実証分析を中心に研究を行った。2020年度の成果は以下の3点にまとめられる。 (1)データ収集と予備調査を行い次年度につなげることができた。本年度は当初の予定通り新聞記事データの収集を行った。また、データのクリーニングとともにデータの傾向を明らかにする予備調査を行った。とりわけ大きな成果として、Rのパッケージを用いて複数のデータ分析を行い、1950年以降の新聞における政治宣伝の論調の変化を量的に示すことができた。 (2)新聞社の所有構造の分析を行いメディアコンテンツの生産過程における権力の作用を明らかにすることができた。中国の新聞所有はこれまで特殊かつ曖昧であると考えられてきた。これに対し本研究は中国の新聞所有が資本・管理・ライセンス・イデオロギーの4つの層から成り立つ枠組みを示した。さらに、所有制度を通じた党が新聞の所有を独占・維持するメカニズムを制度の構築過程の分析から明らかにした。これらの成果は、(1)で示した政治宣伝の論調の変化をもたらす要因の考察につながる意義のある成果となった。 (3)他分野の研究者と交流を促進することができた。日本マス・コミュニケーション学会ワークショップでは中国のみならずアラブ国家との比較の視点を持ちながら権威主義体制におけるメディアについて議論することができた。さらに、政治経済学会では「現代中国のメディアとその変容」と題し若手の中国メディア研究者と企画セッションを行った。現代中国メディアを分析するための視点やデータ収集、手法について議論した。以上のように、メディアコンテンツのテキスト化が進む中国メディアを研究するための情報交換を行うなど有意義な成果を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究成果としてワークショップでの報告を含め3件の学会報告を行い、多くの成果が得られた年となった。2020年6月に報告した「中国共産党による新聞所有の保障-制度の発展過程の分析から」(アジア政経学会)では、党が新聞を所有することをいかに維持しているのかを1950年代にさかのぼり分析を行った。さらに、2020年9月18日「中国の新聞所有の曖昧さ―新聞管理制度の変遷から―」(政治経済学会)では、中国の新聞所有が複数のレベルによって構成されていることを示した。2020年10月11日「中国メディア研究における分析枠組みの検討ー国家と市場の関係性をめぐってー」(日本マス・コミュニケーション学会ワークショップ)では、中国を対象にしたメディア研究が四理論またはリベラル多元主義に回帰することの問題点を論じた。以上のように、本年度は政治コミュニケーション研究の立場から複数の研究成果を得ることができるなど研究課題に進展があった。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は予定していたデータ収集と予備調査を行うことができ次年度につなげることができた。次年度は本年度の成果に基づきデータ分析における課題として分析結果の解釈の妥当性をいかに高めるかを中心に分析を行う。また、新型コロナにより海外での調査が不可能であるため、海外の研究者などと協力しながら資料収集を行いたい。併せて2021年の課題として、2020年度に行った学会報告で得たコメントを取り込みながら論文としてまとめ成果を報告したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は学会報告がすべてオンラインで行われたため出張費の支出がなかった。また申請者の妊娠と出産により実質的な中断があったため予定したよりも研究書の購入が少なくなった。次年度は引き続き新型コロナによって出張が困難な場合には現地の研究者などに協力を仰ぎ資料の収集を行いたい。
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