本研究は現代社会を特徴付ける「多元性」の観念を政治理論と思想史の両面から検討するものである。その目的は第一に、この概念の明晰化によりその理論的有用性を高めることであり、第二に、この概念の哲学的素性の特定を通じて価値の多元性に関する理論構築を容易にすることである。 2020年度の研究成果は以下の通りである。先行研究の整理・分析および2019年9月に実施した海外資料収集および関係者へのインタビューに基づき、価値多元論の学説史的背景を特定する作業を行った。その結果、価値多元論の主唱者であるアイザイア・バーリンは、これまで通説とされてきた大陸思想から影響と並んで、C・I・ルイスの概念的プラグマティズムから大きな影響を受けていることが判明した。そこで本研究は英国におけるプラグマティズム受容に関する近年の諸研究を参照しながら、価値多元論形成の契機となった人物および理論を特定する作業を行った。この研究成果は研究論文として学術誌上で公表される予定である(受理済み、印刷中)。 期間全体を通じて実施した研究の成果は以下の通りである。まず、2019年度には予定通り価値多元論の理論的側面に関する研究を遂行し、その成果を学会報告の形で公表した。しかしながら学会誌に投稿した論文は不採用となったため、研究成果を広く世に問うことはできなかった。今後、指摘された問題点を再度検討した上で論文を別の媒体に投稿する予定である。他方、価値多元論の歴史的側面に関する研究は、現地資料収集と資料分析を経て論文を完成させることができた。ただし、論文の内容には一定の新規性が認められるものの、他の側面では当初予定していた海外学術誌に掲載されうる水準に到達するには至らなかった。本研究の成果に基づき、今後、国際的な研究水準に比肩する研究成果の獲得に向けた努力を継続する。
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