研究課題/領域番号 |
19K13613
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
吉田 武弘 立命館大学, 衣笠総合研究機構, 研究員 (30772149)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 政党政治 / 貴衆両院関係 / 憲政常道 / 両院縦断 / 大連立(挙国一致) / 情意投合(桂園体制) / 政党化 / 政党内閣 |
研究実績の概要 |
2019年度は研究計画にしたがい、大正期における多様な「政党政治」構想の内容を具体的に検証する作業を行い、概ね以下のような結論を得た。 当該期の政党政治構想は、大きく、A「憲政常道」、B「両院縦断」、C「大連立(挙国一致)」に分類することができる。Aは諸機関(とくに貴族院)に対する衆議院の実質的優位化および同院に基礎をおく政党間での政権授受を模索し、Bは貴衆両院の対等性を前提に「両院縦断政党」の樹立を企図し、Cは衆議院の政党勢力と貴族院の会派を中心とした諸勢力を政権内に網羅することで広範な「政党」(この場合、会派を含む)に基づく強力政権を構想した。 これら諸構想の背景にあったのが、対等な両院関係にいかに対応するかという共通課題(「両院関係問題」)である。明治末期から大正中期にかけて、両院の妥協に基づく情意投合路線が徐々に破綻し、あらためて両院関係問題が浮上するなかで、これに対処すべく先の3つの方向性が示されていった。すなわち、Aは衆院の優位性を明瞭化し、貴族院には衆議院に対する抑制装置としての機能のみを強調することで、Bは妥協体制の限界を前提に「政党化」に基づくより強靭な体制を立ち上げることで、Cは特定の有力勢力間に限定された妥協関係ではなく、より大きな範囲での「大連立」を模索することで、それぞれあらたな状況に対処しようとしたのである。これらはいずれも、両院関係問題および政党政治への展開は不可避であるとの認識を共有したうえで導かれた異なる処方箋であり、その意味で広義の「政党政治」構想(Cといえども基礎となるのは政党)としての側面を強く有していたといえる。すなわち、政党内閣期への展開は、これら諸構想間の競合関係を踏まえたうえで再検討される必要があろう。 なお、上記内容の一部は、「大正期における政党政治と貴衆両院関係の展開」(『歴史の理論と教育』153)として刊行した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は研究計画に従い、国立国会図書館などを中心として複数回の史料調査を実施し、それによる成果を上記の論文として発表することができた。 くわえて本来の研究対象時期とはややずれるが、本課題の重要なテーマである貴族院・衆議院関係が、憲法制定時にいかに構想され、そのことがいかなる政治的選択肢を両院にもたらしたのかを検証する作業も並行して行った。その成果は、大阪歴史学会大会にて報告し、論文化している。これは本来予定していた作業ではなかったが、検証の結果、上記区分のうち、とくにAおよびBにつながる構想が、帝国議会開設以前においてすでに現れていたことを確認することができた。よって副次的ではあるが、これも本研究による成果の一部としておきたい。 ただし、本来であれば、上記区分でいう所のCをより重視した検討を行う予定であったが、こちらの作業はやや遅れており、次年度はこの点に留意する必要がある。 よって、当初の計画以上とはいえないが、おおむね順調に進展しているものと評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、本年度検証した諸構想間の競合状態から、実際の政党内閣期へといたる過程を具体的に検証する。 上記構想中、AとBは特定の単独政党が政権を担当するという点では共通するものの、政党政治の基盤に貴族院を含むか否かで大きく分かたれ、AとCは政党を(中央政界においては)あくまで衆議院を基礎とするものと考える点では同様だが(Cの担い手の多くは貴族院の「政党化」に反対)、Cは政党間の「大連立」を理想とする点で大きく方向を異にする、というようにそれぞれに複雑な絡み合いと対抗関係を有していた。こうした視点からみれば、一見対局的なAとCが対貴族院関係においては協調が可能であるなど、従来とは異なる構図を導くことが可能となる。Aの優位化過程は、まずこうした複雑な政治構想間の絡み合いから検討される必要があろう。 よって上記の観点から、本年度に引き続き諸構想の担い手たちに関する史料の収集・分析を進め、成果を刊行することを目指したい。 ただし、記述の通り、本年度に予定していたCの分析を中心に置いた成果がまだ刊行できていないため、並行してこの作業を行うこととする。
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次年度使用額が生じた理由 |
史料調査の際に用いる複写料金などが想定より低く抑えられたため、少額ながら次年度使用額が生じることとなった。 ただし、物品費(主として書籍・刊行史料の購入に使用)については、想定以上の支出が生じており、次年度の助成金とあわせて、その補充に充てたいと考えている。
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