本研究の当初目的は、2000年代から2010年代にかけて行政官僚制が社会変動にいかに対応してきたかを、内閣府と厚生労働省の役割が重複する社会政策行政を中心に捉え直すことにあった。当初計画では、2020年度までに収集した資料をもとに事例分析を行うことを予定していたが、研究代表者の所属機関移動に伴う研究環境の変化と、新型コロナウィルスの蔓延による出張の困難もあり、研究計画を修正して平成の30年間という長期的スパンで行政官僚制の変化をとらえつつ、行政官僚制の構造的な変化を追跡する路線へ転換した。 2021年度の研究活動は、研究成果の単著としての刊行(小林悠太. 2021.『分散化時代の政策調整』大阪大学出版会)、上記研究成果に関連する幾つかの研究報告とフィードバックの獲得、に注力した。 本研究課題の主要な成果は、以下の3点に要約できる。第一に省庁官僚制の側では、1990年代以降の中央府省組織は組織構造が長期的に変化している状況にあり、「課の変化」を中心とする対応メカニズムは組織の下部に移行しつつあった。分権型行政管理が継続する中で、局課総数制限から逃れつつ自律的な組織変化を行う必要に迫られたのであろう。第二に政府中枢に関して、行政改革会議では基本的に特定分野の政策調整を志向している。この方式は政策課題の追加に脆弱で後発課題には相対的に少ない資源しか与えることができず、2000年代に埋め込まれた政策課題からの転換を困難にする側面を持っていた。しかし第三に省庁官僚制と政府中枢の相互関係を見ると、分掌官制による融通無碍な組織特性は、結果として本来の改革意図とは別に、大規模省庁の合併に伴う歪みを政府中枢側が吸収して補完する機能を果たした側面を持つのである。
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