研究課題/領域番号 |
19K13621
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
冨田 晃正 埼玉大学, 人文社会科学研究科, 准教授 (30781679)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 移民 / グローバリゼーション / 労働組合 |
研究実績の概要 |
貿易や資本移動に比べると、国際関係論や国際政治経済学における移民政策に対する学術的な注目度は決して高くない。よって本研究では、国際政治経済学的なアプローチを使用することで、こうした既存の移民研究の限界の克服を試みている。より具体的には、どのような状況下で開放的な移民政策は進むのか?(or 進まないのか?)、といった、未だに解明すべき重要な現代的的意義のある問いを様々な観点から複合的に考察を行っている。なお、こうした問いに答えることは、現代世界が直面する移民問題をはじめとするグローバル化の来歴を説明することにもなる。これが国際政治経済学研究としての本研究の根幹を成す目的である。そのために本研究では、先進国の中でも古くから移民の受け入れを行ってきた移民大国であるアメリカに着目し、アメリカの移民政策において重要な役割を果たす社会集団の選好形成に対して、通商のような移民政策以外のイシューが及ぼす影響に関して考察するといった、イシュー横断的な分析枠組みを提唱している。 なお、ここでの分析対象としては、アメリカ政治において重要な民間アクターである企業と労働組合に焦点を当てている。そして、そうしたアクターが企業の海外直接投資や海外からの輸入の増大といった通商に関わる事象から、通商政策のみならず移民政策に対する選好をも変化させてきていることに着目し、グローバル化が進展した2005年以降のアメリカ移民政策の変遷を理解することを目指し、1年をかけて研究を進めてきた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、近年アメリカの移民政策が閉鎖的な方向へと進んでいるのは、グローバル化の進展が、企業と労働組合の移民政策への選好を逆転させているのではないか、という仮説(主張)を打ち出し、それを検証することを試みている。こうした仮説検証の目的で、第一に、グローバル化が進展する前の1960年代から進展した後の2010年代に至る、労働組合と企業の移民政策への選好の変化を明らかにする。そして第二に、そうした選好の変化が、現実のアメリカ移民政策を閉鎖的な方向へと進めていることの重要な要因となっているか否かについて考察する。こうした二つの分析の段階において仮説の検証を進めているが、1年目は特に労働組合と企業の選好の変化に関する調査、検証という作業を中心に実施することで、上記の仮説検証を展開してきた。 なお、こうした検証を実施する上では、アメリカ議会の情報を詳しく記した Congressional Quarterly Weekly といった資料や各労働組合やアメリカ最大の企業団体である全米商工会議所が発刊している機関誌やリーフレット、広告記事などの一次資料を丹念に当たることで極めて実証的に分析することが必要となるが、1年目はそうした資料収集を、国内で入手できるものを国立国会図書館を中心に進めてきた。こうした作業により、労働組合と企業の移民選好の変遷を明らかにできるような資料を収集することが実現できた。また、移民政策を扱った先行研究の整理及び読み込みを進めたことも1年目終了時の進捗状況として指摘できるだろう。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、グローバル化の進展によりアメリカの移民政策が変化している様子を、イシュー横断的なアプローチを通して明らかにすることで、包括的なグローバル化研究の実現を目指している。2年目以降は、1年目での準備を踏まえた上で、更なる広がりのある研究成果の実現を目指す。そのためにも、2年目以降は積極的に海外への研究調査を実施していくことを予定している。特に、アメリカにおいて移民関係の資料が充実しているアメリカワシントンDCにある議会図書館や、移民関連の資料が豊富にあるジョージタウン大学国際移民研究所に資料収集に行くことを予定している。それに加えて、実際に労働組合や経営者団体の政治活動責任者へのインタビュー調査も予定している。 また、本研究において実施する分析手法に関してであるが、ここでは詳細な因果関係の特定が可能な質的な手法に加えて、定量的なものも同時に実施を予定しているが、こうした定量研究の準備も2年目以降は本格化することを目指す。こうした作業を重視するのは、定性研究に加えて定量研究を実施することにより、文脈を理解しつつも科学的な分析が可能となり、高い学問的価値を持つ研究へと昇華できると考えるからである。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度の使用計画としては、主に(1)海外調査費、(2)書籍購入、(3)物品購入の3つの柱が予定されている。(1)の海外調査費に関しては、アメリカを予定しているが、比較研究の観点からカナダやオーストラリアへの渡航も予定している。(3)の物品購入に関しては主にPC関連の部品の購入に充てることを予定している。
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