研究課題/領域番号 |
19K13636
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
阿部 亮子 同志社大学, 研究開発推進機構, 助教 (00823931)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 安全保障論 / アメリカ / 軍事ドクトリン / 戦略文化 / アメリカ海兵隊 |
研究実績の概要 |
本研究は、国防組織の行動原理の変化が実戦にどのように反映されるのか、言い換えると、構想の変化は国防組織の行動原理の変化に留まるのか、それとも、構想の変化は実戦までも変化させるのかという問題関心に基づいている。 米国の戦争の特徴は、火力による敵の撃破を累積する戦い方で、それを中央集権型の指揮形態や行動を詳細に規定したマニュアルで実行し、将校教育はマニュアルを厳密に遵守する能力の開発を目的としてきたと描かれてきた。しかし、ベトナム戦争撤退後の海兵隊では、この米国の伝統から著しく乖離した、「機動戦」と名付けられた構想がドクトリンとして採用され、海兵隊の行動原理となった。 本研究は、機動戦の採用は、ドクトリン上の変化、すなわち行動原理の変容に留まるのか、それとも、行動原理の変化は実戦にも反映され、海兵隊は実戦も変化させたのかを考察する。先行研究でも、2003年のイラク自由作戦への機動戦の影響が指摘されるが、それらは印象論に陥っていることは否めなかった。申請者は、海兵隊の作戦立案を主導する人材を多く輩出してきた先進戦争学校に着目することで、ドクトリンの実戦への転化のメカニズムを、より綿密に解明する研究に取り組んでいる。 本年度は、本研究で扱う三つのケースのうち、2003年のイラク自由作戦と2004年のファルージャの戦いの事例研究を部分的に遂行し、単著の一つの章で発表した。研究成果の一つ目は、イラク自由作戦で第1海兵遠征軍の司令官達が、機動戦構想に基づき実際の作戦を指揮したことを、海兵隊歴史部局が編纂した資料の分析から明らかにしたことである。第1海兵遠征軍が作戦テンポを重視したこと、敵の防御の弱点に我の主力を集中させることでバグダッドを迅速に奪取したことを主張した。二つ目の研究成果は、ファルージャの戦いにおいて、機動戦の特徴の一つである分権型の指揮-任務指揮-が用いられことを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では1年目に当たる本年度は、1990年代半ばから後半の先進戦争学校の教育内容への機動戦構想の反映、卒業生の2つのケースへの関与を整理する予定だった。そのために9月にアメリカ海兵隊歴史部局のアーカイブで資料収集を行うことを計画していた。しかしながら、アーカイブの使用方針が変更され、そのため、予定していた日程で資料を収集することが困難になった。そのため、計画を変更し、先に、2年目以降に予定したいた事例研究を部分的に実施することにした。本年度は、3年目に実施予定としていたイラク戦争での2つの事例研究を部分的に実施し、その成果を単著『いかにアメリカ海兵隊は、最強となったのか』の第1章で発表した。そのため、研究計画の順番には変更があったが、進捗状況としては、おおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
1年目に実施予定だった戦争先進大学の教育に関する調査については、COVID-19の感染拡大の影響で、渡米可能な時期について、現段階では見通しが立たない。従って、二年目に当たる次年度は、まず、前年度に実施したイラク戦争での事例研究を継続して行う。前年度に実施したイラク戦争の2つのケーススタデイー2003年のイラク自由作戦と2004年のファルージャでの戦いにおいて、第一遠征軍レベルでの機動戦の反映については解明した。第1海兵遠征軍が作戦テンポを重視したこと、敵の防御の弱点に我の主力を集中させることでバグダッドを迅速に奪取したことを主張した。二つ目の研究成果は、ファルージャの戦いにおいて、機動戦の特徴の一つである分権型の指揮-任務指揮-が用いられことを示した。それらを調査する中で、第1海兵遠征軍の中にも意見の対立があったことや、より上級部隊の統合軍レベルとの意見の対立があったことを発見した。そのため、今年度は第一遠征軍の中での意見の対立や上級司令部と海兵隊の意見の対立に着目しつつ、機動戦構想の実戦への反映を考察する。併せて、計画では2年目に行う予定であった2001年の不朽の自由作戦に関する事例研究を開始する。 渡米が可能になった場合、戦争先進学校と事例研究に関して、アーカイブ調査を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
1年目に当たる本年度に、米国のアメリカ海兵隊歴史部局アーカイブにて資料収集と、アメリカにて聞き取り調査を実施していた。しかし、2019年9月には、アーカイブの使用方針に変更があり、予定していた日程での資料収集が困難になった。そのため、本年度は、次年度以降に実施する予定だった事例研究を部分的におこなった。事例研究では、歴史部局が発行した公刊文書を郵送にて取り寄せて、その読解から行った。公刊文書が予想より多数発行されていたため、本年度はこれらの読み込みに集中した。また、2020年2月、3月はアーカイブへのアクセス方法について再び大きな変更が行われたことと、COVID-19の感染拡大のため、事例研究に関するアーカイブ調査も次年度以降にせざるを得なくなった。
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