研究課題/領域番号 |
19K13637
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
西 直美 同志社大学, 研究開発推進機構, 嘱託研究員 (50822889)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 国家 / 宗教 / イスラーム復興 / ナショナリズム / タイ深南部 / マレーシア |
研究実績の概要 |
タイ政府とのあいだで紛争が続くタイ深南部にイスラーム国(IS)の影響がないことが指摘される一方で、人口比でみた場合にISに参加するために出国した人数がもっとも多い国がマレーシアだといわれる。本年度は、予定していた現地調査を見合わせたため、マレーシアにおける国家と宗教の関係について文献から得られる情報を中心に検討を行った。 マレーシアでは、ムスリム中間層の過激化が問題とされてきた。1970年代以降、学生や公務員を中心にイスラーム復興運動が展開すると同時に、政府による宗教の国家管理が強化された。政府が問題視したのは、人種間の調和を乱す過激思想を広めるとみなされた逸脱したダアワ(宣教)運動である。イスラーム解釈をめぐる政治対立は、イスラーム主義を掲げるマレー人の政党であるPASと、与党UMNOの対立としても理解されてきた。クランタン州政権を握ってきたPASは、国境を接するタイ深南部の分離独立運動にも影響を与えてきたといわれている。 2000年代以降、アルカイダを代表とするグローバルなジハード主義が世界的な関心を集めるようになった。マレーシアが過激派の温床となっているという国際社会の批判を受けて問題視されるようになったのは、逸脱したイスラームの教えである。過激化として問題視されるのは、「マレーシア的なイスラーム」からの逸脱であり、脱過激化プログラムに対しても穏健な中道イスラームというマレーシア国家の自己イメージが投影されていることが明らかになった。 本年度は、10月に開催された日本国際政治学会において「宗教とナショナリズム―イスラームからみるタイ深南部紛争の諸相」と題し、マレーシアやインドネシア、中東などイスラーム世界との関係からタイ深南部問題の考察を行った。発表に対して、インドネシア、マレーシア研究の専門家からのコメントを得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
マレーシアでの現地調査を踏まえ、マレーシア側からタイ深南部問題を照射し、課題に対する考察を行う予定であった。しかし予定していたマレーシアでの現地調査を見合わせたため、現地調査を通してしか得られない情報を得ることが困難であった。 オンラインを活用した遠隔での情報収集について、これまでの現地調査の実績があるタイ深南部においては、ある程度実施することができた。しかし、マレーシアでの調査に関しては、オンラインでの情報収集についても目途が立たなかった。
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今後の研究の推進方策 |
今後の課題は、ナショナリズムとイスラーム主義が脱過激化をめぐる政治において果たしている役割という点について、どのように全体的な考察を行っていくかである。次年度は、タイ深南部の宗教教員を対象にオンラインで実施したイスラーム的価値に関するインタビューの成果を、研究会や学会で報告する。同時に、マレーシアの宗教と国家に関する先行研究の検討を通して得られた知見を踏まえて、マレーシアの人々が「逸脱したイスラーム」という概念やタイ深南部問題をどのように捉えているのかという点について現地調査を行う予定である。新型コロナウイルス感染症の拡大状況によって現地調査を行うことができない場合を想定し、マレーシアの大学に所属する研究者の協力を得て、アンケートを実施する準備も適宜進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和2年度は、予算額のほとんどを占めていた旅費を使用することができなかった。令和3年度はワクチン接種と新型コロナウイルス感染症の拡大状況に応じて、マレーシアへの出張が可能になれば現地調査を実施する。
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