研究課題/領域番号 |
19K13638
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
島田 大輔 早稲田大学, 社会科学総合学術院, 講師(任期付) (40731435)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | Green Flag / 国際モスレム協会 / 文化冷戦 / 反共 / 回教政策 / イスラーム主義 / 大日本回教協会 |
研究実績の概要 |
本研究は、日本のイスラーム政策が戦前・戦後どのように変容したのか分析するものである。戦後期については、1952~60年に存在した国際モスレム協会が、イスラーム主義宣伝と反共宣伝を目的としたイスラーム工作(政府との関係が立証できていないので「工作」)の担い手となり、英語雑誌Green Flagを世界中に配布していた。本研究は、この冷戦下に行われた日本のイスラーム工作に関して、①戦前戦後の連続性、②日本政府、米国政府との関係などを検証し、日本が冷戦下にイスラーム工作(政策)を継続した意味を問うものである。 初年度である2019年度は、史料調査と分析に重きを置いた。その結果、「ないものの確認となったもの」(=主に公文書の方面)、「新しく史料の発掘に成功し、かつ分析が進んだもの」(=主に機関誌の方面)に大別される。 2019年度は、まず、国際モスレム協会の機関誌であるGreen Flagの読解(各号の記事の精読)を進めた。掲載記事と社説の関連性や宣伝内容に関して分析を進めた。同誌の読者欄から配布に日本外務省が関与したとの記述を発見した。また、史料調査として、①外務省外交史料館における史料調査(1950年代の中近東関係部局の「執務報告」、在中近東公館の公館長会議の会議録)、②Green Flagの欠号探索などを行った。①は、残念ながら国際モスレム協会と外務省の関連性に関する記述は見つけられなかった。②については、とある研究者個人蔵のなかから日本国内の公共図書館に含まれていない欠号二巻分を発見した。 また、平行して獲得していたJFE21世紀財団の研究助成を用いて、2020年2月に北米に出張し、カナダと米国に残されている、1950年代の英語イスラーム雑誌(Green Flagと同時代)を複数確認し、また、米国国立公文書館において1950年代米国とイスラーム世界に関する公文書を収集した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度である2019年度は、史料調査と分析に重きを置いた。その結果、「ないものの確認となったもの」(=主に公文書の方面)、「新しく史料の発掘に成功し、かつ分析が進んだもの」(=主に機関誌の方面)に大別される。 2019年度は、まず、国際モスレム協会の機関誌であるGreen Flagの読解(各号の記事の精読)を進めた。掲載記事と社説の関連性や宣伝内容に関して分析を進めた。Green Flagが在外ムスリムに対しどのような宣伝意図を有していたのか、また、そのメッセージはどのように受け入れられていたのか分析が深まった。同誌の読者欄から配布に日本外務省が関与したとの既述を発見した。また、史料調査として、①外務省外交史料館における史料調査(1950年代の中近東関係部局の「執務報告)、在中近東公館の公館長会議の会議録)、②Green Flagの欠号探索などを行った。①は、残念ながら国際モスレム協会と外務省の関連性に関する記述は見つけられなかった。②については、中国ムスリムに関する人類学研究者(匿名希望)が所蔵するGreen Flagの中から、日本国内の公共図書館に含まれていない欠号二巻分を発見した。また、研究課題と同時代の昭和期日本の中国認識に関する研究成果を発表した。 また、科研費での出張ではないが、採択前に同一課題で採択されたJFE21世紀財団の研究助成を用いて、2020年2月に北米に出張し、カナダと米国に残されている、1950年代の英語イスラーム雑誌(Green Flagと同時代)を複数確認(なかには海外に残る唯一のGreen Flagを含む)し、また、米国国立公文書館において1950年代米国とイスラーム世界に関する公文書を収集した。この成果を踏まえて、2020年度に、科研費を利用して再度北米での追加調査を実施する予定であった。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度に入手できた史料を用いて、2020年10月23~25日開催予定の国際政治学会2020年度研究大会 国際交流分科会(筑波大学)において、「冷戦下日本における対ムスリム宣伝工作と国際交流」と題する研究報告をする予定である(採択済み)。これは折り返し地点の中間報告であり、これまでの研究成果を発表した上で、意見を乞い、必要であれば、方向修正を行う予定である。 ただし、難点は新型コロナの影響により海外調査が封じられてしまったことである(2020年6月現在、国内調査も若干厳しい状況にある)。今年予定していた、北米や中国での史料調査出張は断念せざるを得ない。海外調査は、もし目途がつけば、2020年度末、あるいは最終年度(2021年度)に後ろ倒しするほかない。ただし、【現在までの進捗状況】でも述べた、別資金での調査の結果収集した史料が豊富にあり、とりあえず本年は、その分析に集中したい。また、初年度は申請者にとっても新機軸である「戦後」に重点を置いていた(これは、この先の目途をつけるためであった)が、本課題は、戦前と戦後の連続性/非連続性の検証にあるため、「戦前」のムスリム利用論の分析など、手元、あるいは、所属先の早稲田大学図書館で可能な調査分析に注力したい。 また、初年度に、全世界におけるGreen Flagの悉皆調査を終えたので、2020年度は、総目次と史料紹介をどこかの学術誌に投稿したい。また、国際政治学会での研究発表を踏まえた、Green Flagの内容分析に関する研究論文を査読誌に投稿したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度に予算が余ったのは、2020年2月に購入する予定であった古書がすんでのところで売り切れてしまい、使い道がなくなったので、次年度に繰り越したからである。2020年度の助成金と合わせて、研究課題に関連した書籍を購入する予定である。
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