研究課題/領域番号 |
19K13639
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
五十嵐 元道 関西大学, 政策創造学部, 准教授 (20706759)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 文民保護 / 国際刑事裁判 |
研究実績の概要 |
本年度は、研究が大いに進捗した。本研究プロジェクトは、国際組織による文民死者データの生成構造を明らかにすることを目指しているが、その解明に必要な2つの研究課題について研究成果が出た。以下で説明する。 第一に、本年度は、国際組織が文民死者数をデータ化するための大前提となる、国際法の成立過程を再検討した。具体的には、1949年のジュネーブ諸条約における文民のカテゴリー化について、詳細に分析した。その結果、1949年以前、文民がアンビバレントな存在として認識されており、1949年のジュネーブ諸条約にも、それが大きく反映されていたこと、また文民のカテゴリーが、具体的に想定された戦争の諸文脈に応じて、複雑なかたちで構成されていたこと、そもそも文民性の獲得において、文民が受動的な存在として構成されていたことなどを明らかにした。この研究成果は、2019年度日本政治学会での報告、ならびに関西大学法学研究所『研究叢書』第60冊(2019年11月)への投稿として結実した。 第二に、本年度は、国際組織による文民死者データ生成の代表的事例である、旧ユーゴスラビア国際刑事裁判所での専門家ネットワークによるデータ生成について、詳細に分析した。この研究は以下のことを明らかにした。この国際刑事裁判では、世界各地の法医学や戦争人口学の専門家がアドホックなネットワークとして構成され、それが現地の遺体や遺族などと結びつくことでデータが生成され、裁判に必要な事実を生み出した。この研究成果は、査読雑誌に掲載予定となっている。 以上の研究の進捗によって、次年度は、冷戦期における国連による文民死者データ生成の分析、ならびに2010年代の国連による文民死者データ生成の分析、という2つの課題に集中することが決まった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、計画していた2つの研究課題について、順調に分析が進み、研究成果が出た。それゆえ、本プロジェクトはおおむね順調に進展している、と結論できる。 第一に、文民死者データの大前提となる、国際法の成立過程を再検討できた。具体的には、1949年のジュネーブ諸条約の成立過程の分析であるが、これに関する史料は、公刊されていたり、インターネット上で公開されているものが非常に多い。それゆえ、代表的な史料へのアクセスが可能で、それが分析の進捗を支えた。実際、本研究成果は、2019年度日本政治学会での報告、ならびに関西大学法学研究所『研究叢書』第60冊(2019年11月)への投稿として結実した。 第二に、旧ユーゴスラビア国際刑事裁判での文民死者データの生成を分析できた。本事例では、法医学や戦争人口学などの専門家がネットワークとして構成され、文民死者データの生成に携わった。そして、彼らのデータが裁判の進展に大きな影響を与えた。旧ユーゴスラビア国際刑事裁判の資料は膨大で、そのほとんどがインターネット上に公開されている。ただし、そのデータは難解で、専門的な知識が必要となる。本年度は、数多くの二次文献の読解を通じて、必要な知見を得られたことで、一次資料の分析が進捗した。研究成果は、査読雑誌に掲載予定となっている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度、研究プロジェクトがおおむね順調に進捗したことから、次年度は、以下の2つの課題に集中する。第一に、冷戦期における国連による文民死者データ生成の分析である。冷戦期は、国連が米ソの対立構造のなかで、一定の条件が満たされた事例でのみ、文民死者データの生成を試みた。もちろん、それはきわめて限定的なものだったが、冷戦後の展開につながる動きもわずかながらあった。次年度は、この分析に取り組む。 第二に、2010年代の国連による文民死者データ生成の分析を行う。国連が文民死者データの生成にもっとも盛んに取り組んだのが、2010年前後である。それゆえ、この時期の活動がいかなるもので、どのような影響をおよぼしたのかを分析する。特に注目しているのが、リビア、アフガニスタン、シリアなどでの紛争である。また、国連の諸組織のなかでも、とりわけ人権理事会がデータ生成に盛んに取り組んでおり、その活動の分析に多くの資源を投入する予定である。 ただし、新型コロナウィルスの影響で、必要な資料の収集が果たしてどこまで可能なのか目下、不透明であり、その点は今後の推移次第である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、新型コロナウィルスの影響もあって、参加予定だった研究会が次々と中止になった。そのため、旅費が当初の計画よりも少なくなり、次年度使用額が生じた。次年度は、その分の助成金を旅費(研究会ならびに学会)に充てるとともに、本年度に機能が著しく低下したパソコンなどの機材の購入を計画している。
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