2023年度は、イスラエル・パレスチナ(2023年9月)およびヨルダン(2024年3月)で現地調査を行った。その間の2023年10月には、ハマースによるイスラエル襲撃事件(以下、10.7事件)が発生し、ヨルダン川西岸地区およびガザ地区のパレスチナ人住民を取り巻く環境は様変わりした。今後のハマースの戦略を分析するうえで、10.7事件は転換点となろう。10.7事件の発生前に実施した現地調査では、高齢のアッバース・パレスチナ自治政府大統領の後継者問題が注目される中で、ハマースがポスト・アッバース期の政治領域において関与を強めるべく、準備を進めていることが分かった。また、ハマースには、対イスラエル武装闘争が依然として重要な手段であると認識されており、レバノンのヒズブッラーなどの組織との連携を深めている状況にあったことも確認された。イスラエルについては、ガザからのロケット攻撃の有無によって選別される、ハマースへの経済的誘因の提供と軍事力の行使という「アメとムチの政策」が効果を上げているとの認識が存在することがうかがわれた。これらも併せて、ハマースの内政・外交戦略には、実利を得るために何を資源とするのかという思考が存在していると思われる。
研究期間全体を通じて、本研究が設定した2つの局面―パレスチナ内部のパワー・バランスとハマースの対外関係―に対するハマースの戦略については、ハマース内部の指導者間関係の変化が影響を及ぼしていることを分析した。具体的には、2012年以降、対外関係を所掌していたパレスチナの外に位置するハマースの在外指導部が中東の友好諸国との関係を悪化させたことで、組織の権力の中心がガザ内部へとシフトし、新たな対外および対ファタハ指針の策定という、2つの局面に適用可能な立場が示されるようになったといえる。
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