研究課題/領域番号 |
19K13645
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
高橋 悠太 一橋大学, 経済研究所, 講師 (10835747)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ネットワーク / 厚生分析 |
研究実績の概要 |
現代の複雑な企業間取引においては,個々の企業にとって取引先を失うことや,取引先からの受注減は,企業経営上の多大な損失である.これらの取引先の倒産や受注減などのリスクが,人々の厚生にどのような影響,またどの程度の影響を与えるのか,について分析する.そのために,帝国データバンクが保持している企業間取引のデータと政府が保持するマイクロデータを組み合わせ,取引先リスクを量的に捉え,またモデルを通して労働市場に関する様々な政策を評価することが本研究の目的である. 2019年度は,帝国データバンクの保持するビックデータを詳しく整備・分析することから始めた.リサーチアシスタントを雇い,帝国データバンクが保持している情報,保持していない情報を明らかにし,データを分析するための形に再加工していった.具体的には,帝国データバンクが有する企業情報に関して,基礎的な記述統計(平均的な売上・従業員数)を用意しただけでなく,近年注目されている企業の年齢構造,またその変遷等を簡単にまとめた.また,不足分が政府のどのマイクロデータで補うかを議論した.本格的な研究の下準備を重ねた.そして,このマイクロデータの分析について研究のアドバイスをもらうため,ノースウエスタン大学教授のChristianoら北米大学に所属の大学教授と電話会議を繰り返し,フィードバックをもらった. それと並行して,実証分析に必要な理論モデルの構築に取り組んだ.基礎的なマクロモデルと貿易理論を組み合わせることで,企業ネットワークとマクロ動学分析が同時に行えうるモデルのプロトタイプを構築した. しかしながら,2019年度最終月に,帝国データバンク社のデータが今度使えなくなる可能性が生じたため,研究の方向性を多少変更することになった.この点については下記に詳しく述べる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
帝国データバンクのビックデータの整理・分析には思ったより時間がかかったが,リサーチアシスタントの協力もあり,詳しい分析を行う準備は整えている.また当初考えていたより,帝国データバンクは多くの情報を有しており,その情報が分析上何か有意義に使えるかどうかを議論しつつ,データの整理を進めた.この追加的な作業のため,当初予定していた工程より多少遅れが生じたが,データ分析に関しては概ね順調に進展している. また,理論モデルに関しては,研究代表者の主たる専門であるマクロ経済学・貿易理論を用いた分析を開始した.専門性がある事柄なので,問題なく進展している.
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今後の研究の推進方策 |
残念なことに,一橋大学で今後帝国データバンクのデータセットを使えるかどうか不透明な状況に陥っている.詳細な事実についてはまだ不明であるが,2020年度は,データが使えなくなるという最悪の事態を想定に入れ,研究を推進方策をとる.
帝国データバンクのデータの代わりとして,アメリカ合衆国の州の間での取引データ,またはヨーロッパの貿易データを用いる予定である.帝国データバンクのデータとは異なり,公的なデータであるため,常にアクセスが可能である.一方で,帝国データバンクが有しているほど詳細なマイクロデータではない.このようなデータの制限を補うため,理論パートを大幅に拡張することにする.マクロ経済動学に貿易・生産ネットワーク理論を大きく組み込んだモデルの枠組みを提唱し,そのモデルの推定・分析を行うことにする.現在マクロ経済学では,よりクロスセクションの情報(例・地域間の生産ネットワーク)を用いた分析が始まっている.しかしながら,このような実証分析に対応した,構造モデルはまだ発展途上である.本研究の主眼を,生産ネットワークがあるもとでの(通常の)動学的マクロ理論モデルの構築・分析に変更し,目下研究が進んでいるマクロ分析手法に貢献することを目標とする. また,この研究計画の変更のためにNYU Abu Dhabi大学のNorris講師に研究協力をしてもらう.彼は多くの地域が貿易を行っているときに,どの地域に政府支出を投入すべきなのか,という研究論文を書いている.彼の静学的なアプローチを動学的なものに拡張し,理論モデルの実証,また政府支出のデザインに関する実証分析を行う.これは地震発生後の政府支出分配に関連した重要な問題である.
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