研究課題/領域番号 |
19K13648
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研究機関 | 中京大学 |
研究代表者 |
深井 大幹 中京大学, 経済学部, 准教授 (40835112)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | レポ市場 / 相対市場 / フェイルチャージ / レポ金利 / 限定コミットメント |
研究実績の概要 |
証券を担保とした短期金融市場であるレポ市場において、売り手の証券受け渡しフェイルの誘因と内生的なレポ金利の決定を分析した。その中で、フェイルチャージと金利リセットという近年導入された新しい政策の効果を検討した。これらの介入は取引開始日にフェイルする売り手の割合を下げ,買い手が取引相手を見つけやすくすることによって経済厚生を改善する。最適フェイルチャージはフェイルによって失われた買い手の便益と等しくなり、また、リセット金利と元々の市場レポ金利の差がフェイルによって失われた買い手の便益と等しくなるようにリセット金利を設定することが最適となる。現実において、提言されているリセット金利をゼロに設定する政策は必ずしも社会的最善を達成しないことを示した。 モデルの拡張として、現実における重要な側面を考慮した三つ(売り手のデフォルト、レバレッジポジション、証券受け渡しの遅れ)を検討した。最も重要な拡張である、売り手が確率的にデフォルトし得る拡張において、売り手のデフォルトの確率の上昇は、最適なリセット金利を下落させる一方で、最適なフェイルチャージに対する影響は均衡レポ金利に決定的に依存することを示した。また、売り手のデフォルト確率が十分に高い場合には、基本モデルの結論は覆され、金利をゼロにリセットすることが最適になる状況があることを示した。 これらの結果を"Optimal Interventions on Strategic Fails in Repo Markets"としてとりまとめ、SSRNとMPRAにて公表した。また、2021年4月現在、6月の2021 North American Summer Meeting of the Econometric Society、6月のWEAI 96th Annual Conferenceの2つの国際学会に受理され、口頭発表を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
証券を担保とした短期金融市場であるレポ市場において、売り手の証券受け渡しフェイルの誘因と内生的なレポ金利の決定を分析した。その中で、フェイルチャージと金利リセットという近年導入された新しい政策の効果を検討した。最適な政策を完全に特徴付けることに成功した。現実において、提言されているリセット金利をゼロに設定する政策は必ずしも社会的最善を達成しないことを示した。当初の目的・目標通り、近年の政策を分析する基本モデルを完成させ、政策の効果について解明することができた。また、現実の政策が必ずしも最適にならない条件を導き、最適政策に示唆を与えることに成功した。 モデルの拡張として、現実における重要な側面を考慮した三つ(売り手のデフォルト、レバレッジポジション、証券受け渡しの遅れ)を検討した。特に、売り手が確率的にデフォルトし得る拡張において、売り手のデフォルトの確率の上昇が、最適政策に与える影響を分析することに成功し、売り手のデフォルト確率が十分に高い場合には、金利をゼロにリセットすることが最適になる状況があることを示した。これらの結果は現実の政策について、モデルの設定によって最適となる場合とそうでない場合を特徴付け、政策設計に重要な示唆を与える。 また、ともに権威のある査読付き国際学会である2021 North American Summer Meeting of the Econometric SocietyとWEAI 96th Annual Conferenceに受理され、口頭発表を予定している。
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今後の研究の推進方策 |
レポ市場における最適政策の特徴付けに関する研究は、一つのまとまった論文として取りまとめることができたため、今後はそれらの知見をさらに発展させるべく、よりミクロ経済学的な視点に焦点をあてた研究に移る予定である。特に、金融危機の、金融市場から実物市場への波及メカニズムを理解するため、必ずしも短期金融市場に限定せず、より広範な貸借取引を分析する予定でいる。 具体的には、企業が銀行から借り入れを行う場合について、担保の種類や債務不履行が発生した場合において金利調整政策を分析する研究を始めている。現在までに、企業価値が銀行には不完全にしか観察できない状況において、政策金利が上昇することで、より本源的価値の高い企業のみが借り入れを申し込むような経済モデルを構築した。今後はこのモデルにおいて、企業の債務不履行からの非効率性をどのように抑えるかについて分析していく予定である。
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