本年度は研究計画で掲げた、(1)情報開示ゲームの均衡選択理論の構築、(2)階層構造を持つコミュニケーションゲームにおける均衡選択基準の提案と特徴づけ、(3)均衡選択基準の認識論的基礎付け、の各課題で一定の研究成果を上げることができた。 課題(1)では、専門家からの助言を踏まえて草稿の大幅な改訂を行った。具体的には、均衡構築のためのアルゴリズムを改良し、均衡が一意になるための必要条件と十分条件をそれぞれ応用可能な形で導出することに成功した。当該内容は"Prudence in Disclosure Games"とのタイトルで近日中に公開予定である。 課題(2)では、その知見を組織の経済学に応用し,"Delegation and Strategic Silence"と"Value of Middle Managers"の2本の論文にまとめた。前者では組織内の非公式な権限移譲が成功するための必要十分条件を導出し、現実のケースに照らし合わせてその成否を論じた。またこれらの結果がより一般的な環境でも成立しうることを示したうえで専門誌に再投稿した。後者では階層的組織における中間管理職の役割を議論し、広範な環境下で中間管理職の必要性を示した。当該論文は「Organizational Economics Workshop」や「2023年度日本経済学会秋季大会」等の国内外の学会で口頭報告した。 課題(3)では、ゲームのルールに関する共有知識が不完備な環境において頑健な予測を導くための方法を開発し、企業間競争、サーチ、オークション等の文脈に応用して新たな含意を得ることに成功した。特に高精度の頑健予測が最小の準備対応と一致することを新たに示した。当該内容は"Minimal Prep Correspondence as Sharp Robust Prediction"とのタイトルで改訂中である。
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