研究課題/領域番号 |
19K13660
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
岸 慶一 関西大学, 経済学部, 助教 (80803668)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | イノベーション / 技術伝播 / 生産性分布 / 貿易自由化 / 企業規模分布 |
研究実績の概要 |
イノベーションと技術伝播を考慮した貿易理論を構築し、貿易自由化が企業の生産性分布に与える影響を分析した。イノベーションの頻度に依存して、貿易自由化に対する生産性分布の反応が異なることが明らかとなった。
(1)イノベーションの頻度が低い経済の場合、貿易自由化は生産性分布を右シフトさせ、同時に分布の右裾を薄くする。ここで、分布の右シフトは低生産性企業の退出促進が原因である。貿易自由化には競争促進効果があり、その結果として、企業の退出が促進される。一方で、分布の右裾の厚みの減少は、企業の退出率の上昇が原因である。貿易自由化は企業の参入のインセンティブを高め、その結果として企業の参入率を高め、長期的には退出率の上昇にもつながる。退出率の上昇は、退出寸前の企業の増加を意味するので、全体として高生産性企業の割合が減少し、分布の右裾を薄くなる。イノベーションの頻度が低い経済では、このような生産性分布の反応に対して、平均生産性は上昇しがちであることを示した。
(2)イノベーションの頻度が高い経済の場合、貿易自由化は生産性分布を左シフトさせ、同時に分布の右裾を厚くする。分布の左シフトは低生産性企業の退出の遅れが原因である。企業のイノベーションの頻度が高ければ、低生産性企業でも将来的に貿易自由化の恩恵を受ける可能性が高い。そのため、低生産性企業が退出を遅らせることになる。一方、このような低生産性企業の存在は、知識のスピルオーバーの観点から企業の参入のインセンティブへ悪影響があり、結果として企業の参入率を低下させる。これが退出率の減少にもつながり、退出寸前の企業は減少する。これは全体として高生産性企業の割合を増やすので分布の右裾を厚くする。イノベーションの頻度が高い経済では、このような生産性分布の反応に対して、平均生産性は下落しがちであることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していた通り、イノベーションと技術伝播を考慮した貿易理論を論文としてまとめ、査読付き学術雑誌へ掲載を決めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究結果を査読付き学術雑誌に掲載する過程でレフェリーから「企業年齢と企業規模の相関係数の符号や大きさ」が「貿易政策に対する参入のインセンティブの変化の大きさ」を決めているのではないかと指摘があった。掲載された論文では、このような分析を進めることができなかったが、非常に興味深い視点であるため、今後の研究課題として進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの影響で予定していた出張が実施されなかったため、次年度使用額が生じた。次年度は書籍の購入や論文の英文校正などを計画している。
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