研究課題/領域番号 |
19K13687
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研究機関 | 佐賀大学 |
研究代表者 |
野方 大輔 佐賀大学, 経済学部, 准教授 (20614621)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ガス事業 / 競争 / 自由化 / スイッチング |
研究実績の概要 |
家庭用エネルギー市場でのスイッチングは低調な状態が続いており、特にガス事業でその傾向は強い。この問題を克服することは自由化後の課題として認知され、一般にはその問題の主要因としてインフラ面での課題に言及されることが多い。本年度はそのような問題のみで議論を終わらせるのではなく、その他の要因に注目して家計のガス市場におけるスイッチング行動の決定要因を検証した。結果、家計は新ガス会社の供給価格、情報検索に要する費用、供給者の質を憂慮している。よって企業側は適切な情報を低コストで提供することが肝要である。このことは、家計の日常的に利用するような情報源を通じ、情報提供を継続的におこなうことがスイッチング率向上につながり得ることを示唆している。 他方で、新規参入のしにくさを生じさせる構造的な問題がスイッチング率を低位にとどめている可能性がある。たとえば、日本のガス市場ではLNGターミナルがガス貯蔵・供給に重要な役割を果たしており、既存大手企業は、自ら保有する大規模なLNGターミナルを利用して規模の経済を実現可能である。この規模の経済が新規参入者の参入障壁となり、結果的にスイッチング率にも影響を及ぼす可能性がある。LNGターミナルへの第三者アクセス(TPA)開始後もアクセスは低調のままである。こうした構造的な問題を解決することもガス市場活性化に向けた課題として残されている。また、海外の自由化後の事例をみるとスイッチングが必ずしも消費者の便益を高めるとは限らない。今後スイッチングと消費者便益の関係を確認することも必要であり、今後の研究課題として残されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は家計に関するガス小売契約スイッチング行動の決定要因の分析結果を国際査読誌に投稿した。当該論文執筆は単独作業であったが、数度にわたる改訂が求められ、その過程で追加データ収集、関連研究調査のレビュー、海外のエネルギー自由化事例調査等が必要となった。そのため論文の改訂作業に想定以上の時間を要した。また海外出張ができず研究成果の報告が十分でなかった。以上より上記の評価とする。 しかしながら、結果的にインパクトファクター付きの海外査読誌に受理され、個人的には納得いく成果を挙げることができた。当該雑誌のeditorとreviewerコメントを通じて、論文のlimitations、将来の追加的な検証課題も見つけることができ、新たな研究課題の発見もあった。さらに別の副次的な成果も新たに査読誌に載ったので、合計2件の成果を挙げることができた。
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今後の研究の推進方策 |
論文のlimitationsを踏まえて、追加の研究課題に取り組む。必要な小売価格データや消費者行動データは公表データの蓄積が不足しているため、まずはpreliminaryな段階の検証とならざるをえないが、当該成果を国内学会や研究会等で報告し、参加者コメントをもとに具体的対応を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウイルスの感染拡大により研究成果発表やヒアリング調査等が十分にできず、執筆作業そのものに必要な英文校正費と書籍費を主に計上することとなった。結果、次年度使用額が生じた。
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