今年度は以下の研究の完成・学術誌への公刊に専念した。 1. 海外直接投資が国内労働市場に与える影響: 近年多くの先進国において多国籍企業が海外に進出することにより、国内の雇用が減少し産業が空洞化する懸念が叫ばれている。本研究は日本の親企業・海外現地法人のデータを用いて、こうした懸念が正しいものかを検証した。具体的には、新たに生み出される雇用と失われる雇用を各親企業・各部門(製造、マーケティング、研究開発、営業など)の人数から計算し、これら親企業レベルの雇用創出・喪失が、海外進出により如何に影響されるかを分析した。その結果、海外子会社の立地先が重要であることがわかった。すなわち、アジア地域に立地する子会社が増えると親企業の雇用創出は増え、雇用喪失は減るが、北米・欧州地域に立地する子会社が増えると雇用創出・喪失ともに減少する。海外進出はその進出先にかかわらず、雇用喪失の減少、すなわち雇用関係の継続する既存の人員の増加を通じて本国の労働市場に正の影響をおよぼす。一方で海外進出は必ずしも本国で新しい職を生み出すとは限らない。研究成果は査読付き国際学術誌である The World Economyに採択・公刊された。 研究期間全体を通じて1以外に以下の3本の研究を完成・学術誌に公刊させることができた。 2.比較優位に基づく貿易理論モデルを用いた環境政策の分析:The B.E. Journal of Economic Analysis & Policy。3.海外直接投資受入れが地元企業にもたらす技術スピルオーバーの分析:Review of Development Economics。4.移転価格操作のできる多国籍企業の立地行動の分析:International Economic Review。反省点としては、金融市場の役割に十分着目できなかった点、定量的な分析を十分に行えなかった点がある。
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