今年度は、①建築基準を満たしていない既存不適格の住宅、及び、②空き家を主軸に、立地分析や周辺環境への影響について経済学的な観点から分析を続けた。 ①東日本大震災による旧耐震基準住宅(1981年以前に建てられた共同住宅)の価格変化の分析を進めた。差分の差分法による分析の結果、東日本大震災の直後、旧耐震基準住宅の資産価値が4%ほど下落したという結果が得られた。これは人々の災害に対するリスク認知の変化による影響と捉えることができる。この効果は、震災後5年ほど続いていたが、それ以降(2018年以降)は統計的に有意でなくなっていた。今年度は論文を国際雑誌に投稿したが不採用であった。既存不適格の問題は、空き家などの低未利用土地の利活用とも大きな関係があり、②のテーマとも関連する。空き家の現地調査のデータを集計した結果、接道幅員が4mに満たない住宅(建築基準法により建て替えが制限される住宅)は、その他の住宅と比較して、空き家になりやすいことが判明した。 ②空き家に関する研究では、豊島区が2016年に実施した戸建て空き家調査の個票データをもとに、今年度は2016年に空き家であった戸建て住宅594戸の追跡調査を行った。そのうち約半数が継続して空き家のままであった一方で、その他の半数は再活用が進められていた。再活用の用途としては、多い順から、新築の共同住宅や戸建て住宅への建て替え、取り壊しによる空き地化や駐車場への転用、同じ建物に占有者が住むケースが観察された。上記したように、接道幅員が狭い空き家の利活用が進んでいない傾向が見られた。本研究の報告書を豊島区に提出した。
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