研究課題
研究題目「地方分権化の進行にともなう新しい景気安定化政策の動学的実証分析」研究代表者が2019年度・2020年度に行った研究は、地方分権化を切り口にした日本における税の自動安定化装置(built-in stabilizer)についての実証分析である。現代経済において、自動安定化装置(built-in stabilizer)の重要性は以前に増して高くなっている。2008年の住宅投資バブル崩壊後の景気のゆるやかな拡大期においても、国・地方合わせた長期債務残高は、減少せずむしろ増え続けている。この様な脆弱な財政状況下で、政府の政策が後手に回ったとしても、経済変動を自動的に緩和する、自動安定化装置の必要性は高い。最終年度に行った研究は、税収面から見たときの、地方政府の経済安定化機能の有無についての動学的実証分析である。地方税に経済安定化効果があるか否かは古くから議論があり、決着はついていない。税収と所得は、所得が増えることで税収が上がり、増えた税収により可処分所得の上昇が抑えられて、消費を抑制して、所得へ反映する同時方程式モデルの中で決定される。最終年度の研究は、変数間システム推計の3段階最小二乗法マクロ連立方程式モデルにより地方税の所得弾力性を実証分析した。地方税の代理変数の問題を解決するために、地方税と国税を同時に推定モデルに取り入れるシステム推計を考えた。分析の結果、経済安定化の効果の指標である地方税の所得弾力性は、指標の基準値を超えており、日本の地方税は経済安定化の機能を備えていることが明らかになった。研究初年度に行った地方住民税の税支払いによる安定化機能の実証分析と合わせて、研究期間全体を通じて、地方分権化の時代の新たな景気安定化政策の可能性を考察し、自動安定化装置の重要性および意義が再認識されることに貢献した。
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東京学芸大学紀要 人文社会科学系Ⅱ
巻: 第72集 ページ: p.135, p.140