本研究は,人口動態の変化による世代ごとの選挙を通じた政治的影響力の変化を考慮することで,政治的に実行可能性の高い財政政策の在り方を検証することを目的とする.より具体的には,若年層向けの公的教育と老年層向けの賦課方式公的年金のように世代間対立が生じうる政策を実行する上で,政治的に支持される,より望ましい税制のあり方を理論的に分析する.そのため,政策を行うための様々なファイナンススキーム(徴税手段が所得税か消費税かなど)の下で政策の民主的な意思決定プロセスを考慮した理論モデルを構築し,政治と経済両面における均衡の導出とその分析を行う. 主要な分析結果として,人口減少経済においては教育のための徴税手段として所得税だけでなく消費税を用いることで若年層だけでなく老年層にもメリットがあること,人口減少率が十分高い場合は政治的に決定される消費税率が0になるという意味で教育制度が維持できない可能性があることが示された. このような結果は,現役世代にとっての現在の教育充実のメリットは若年層の人的資本蓄積に伴う引退時の年金給付の増加によるものであり,人口減少が深刻な場合にはそのメリットを消費税負担のデメリットが上回るため,できるだけ低い消費税率を支持するようになることで生じる. これらの結果は,少子高齢化がさらに深刻化する日本の政策およびその財源となる税制について議論するうえで一定の意義があるものと考えられるが,技術的な困難さのため当初想定していた分析が十分に行えていないこともあり,現時点で成果物の公表には至っていない.
|