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2019 年度 実施状況報告書

日本の寄付税制の行動経済学的実験研究

研究課題

研究課題/領域番号 19K13722
研究機関京都大学

研究代表者

佐々木 周作  京都大学, 経済学研究科, 特定講師 (20814586)

研究期間 (年度) 2019-04-01 – 2022-03-31
キーワード寄付税制 / 寄付金控除 / マッチング寄付 / フレーミング効果 / 行動経済学 / 実験経済学 / フィールド実験
研究実績の概要

本研究課題では、「寄付金控除」による還付施策と「マッチング寄付」による上乗せ施策を、経済実験を用いて比較する。両者は実質的に同じ寄付促進施策であるが、前者は減税で、後者は第三者機関の上乗せ寄付で、一定金額を寄付する際の自己負担額を下げて寄付を促す。優遇額が同じでも、行動経済学では施策の表現(フレーミング)の違いが異なる効果を生むと考える。本研究では、日本人を対象に実験を行って、日本人において寄付金控除よりマッチング寄付の方が寄付行動を促進するのかを検証するとともに、日本の既存の寄付税制について改善案を提示して、政策的に貢献することを目指す。
2019年度の研究活動では、日本全国に居住する20歳から69歳までの男女2,300名を対象にして実施した金銭的インセンティヴを付与したオンライン経済実験のデータを用いて、寄付金控除とマッチング寄付を比較検証した。分析の結果、たとえ優遇率が同じでも、寄付金控除に比べてマッチング寄付の方が高額の寄付を誘発する効果が大きいことが分かった。具体的には、50%の寄付金控除の群に割り当てられると、実際の寄付支出額が統制群に比べ約126円下落したのに対して、100%のマッチング寄付の群(優遇率は50%控除と実質的に同じ)に割り当てられると、逆に実際の寄付支出額が約56円上昇した。この結果は、海外の一連の先行研究で観察された結果の傾向と一致している。つまり、日本でも、マッチング寄付が寄付行動を促進する効果が相対的に大きい可能性が示唆されたと言える。
この研究成果を行動経済学会第13回大会で報告したところ、その学術的意義・政策的意義が認められ、「ポスター報告奨励賞(一般部門)」を受賞した。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

1: 当初の計画以上に進展している

理由

本研究課題は、以下の二点より「当初の計画以上に進展している」と判断できる。第一に、予定より早期に実験データが取得できたため、初年度ながらも詳細な分析を実施することができた。データ分析の結果、仮説通りの結果が得られ、分析結果を学会発表した際には、その学術的意義・政策的意義が認められ、奨励賞が授与された。学会発表を通じて、新しい分析の観点が得られ、次年度以降の研究活動を通じて本研究の意義をさらに深められると考えている。
第二に、併行して実施してきた行動経済学の関連研究も順調に進展しており、成果を上げている。例えば、機械学習の手法を使用して、マッチング寄付の介入効果を個人単位で予測した研究からは、マッチング寄付の介入を受けることで寄付金額を増やすと予測される個人もいれば、その介入を受けることで金額を逆に減らすと予測される個人もいる可能性が示唆された。
以上の2019年度の研究活動から、査読付き英語論文1本、日本語プロシーディングス3本、総説1本、書籍(分担執筆)1冊、国際学会発表1回、国内学会・セミナー発表2回、受賞2回という成果を上げることができた。

今後の研究の推進方策

2020年度以降の研究活動は、以下の二つの方針で進める。一つ目の方針は、2019年度の研究活動(学会発表など)を通じて新しい分析の観点が得られたので、その観点に基づき、寄付金控除とマッチング寄付を比較する追加実験を実施するというものである。具体的には、寄付金控除もマッチング寄付も両方ともに、現実には強制的に付与される介入でなく、人々がその仕組みを利用するかどうかを自発的に検討するものであることを考慮する。追加実験の参加者に、寄付金控除やマッチング寄付の仕組みの利用を自発的に検討してもらう場合と強制的に付与する場合の介入効果を比較して、前者ではどのような人たちが利用するのか、そして利用することがその人たちの寄付金額にどのような影響を与えるのかを明らかにする。
二つ目の方針は、日本の寄付税制を他国のものと比較する、国際比較の視点を取り入れるというものである。例えば、日本と海外の優遇制度の間にどのような共通点と相違点があるのか?各国の人々がその優遇制度をどのように理解して利用しているのか?優遇制度を利用する目的で寄付するという行為を各国の人々はどのように評価しているのか?等を文献調査を通じて整理しながら、経済実験を通じて得られる本研究の成果が、国際的に見てどのような学術的・政策的意義を持つのかを探究する。

次年度使用額が生じた理由

当初、2019年度の後半に実施予定であった追加実験を2020年度に延期するように予定を調整したため、次年度使用額として「600,000円」が生じた。追加実験の実施を2020年度に延期したのは、2019年度の学会発表などで得られた新しい観点を追加実験に反映させ、本研究の学術的意義及び政策的意義を最大限まで引き上げることが目的である。

  • 研究成果

    (9件)

すべて 2020 2019

すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件) 図書 (1件)

  • [雑誌論文] Positive and negative effects of social status on longevity: Evidence from two literary prizes in Japan2019

    • 著者名/発表者名
      Sasaki Shusaku、Kurokawa Hirofumi、Ohtake Fumio
    • 雑誌名

      Journal of the Japanese and International Economies

      巻: 53 ページ: 101037~101037

    • DOI

      10.1016/j.jjie.2019.101037

    • 査読あり
  • [雑誌論文] 寄付金控除とマッチング寄付の比較:日本の寄付税制の行動経済学的実験研究2019

    • 著者名/発表者名
      佐々木周作、黒川博文、大竹文雄
    • 雑誌名

      行動経済学

      巻: 12 ページ: ppS18-S21

  • [雑誌論文] 寄付行動を促すための介入の効果は寄付先活動によって異なるか?:全国規模オンライン実験と機械学習に基づく検証2019

    • 著者名/発表者名
      佐々木周作、石原卓典、木戸大道、北川透、依田高典
    • 雑誌名

      行動経済学

      巻: 12 ページ: ppS14-S17

  • [雑誌論文] 地方自治体におけるナッジの実装に向けた体制構築と普及戦略:横浜市行動デザインチーム(YBiT)の取組事例に基づく提案2019

    • 著者名/発表者名
      高橋勇太、植竹香織、津田広和、大山紘平、佐々木周作
    • 雑誌名

      行動経済学

      巻: 12 ページ: ppS9-S13

  • [雑誌論文] チーム研究の作法:フィールド実験の立上げから運営まで2019

    • 著者名/発表者名
      佐々木周作
    • 雑誌名

      日本労働研究雑誌

      巻: 705 ページ: 13-18

  • [学会発表] Using Machine Learning for Optimal Targeting of Interventions in Charitable Giving: Evidence from a Nationwide Experiment in Japan2020

    • 著者名/発表者名
      Shusaku Sasaki
    • 学会等名
      Joint Workshop on Behavioral Economics
  • [学会発表] Pure Altruism, Warm-glow, and Burnout: The Case of Japanese Nurses2019

    • 著者名/発表者名
      Shusaku Sasaki
    • 学会等名
      The 2019 IAREP/SABE conference
    • 国際学会
  • [学会発表] 寄付金控除とマッチング寄付の比較:日本の寄付税制の行動経済学的実験研究2019

    • 著者名/発表者名
      佐々木 周作
    • 学会等名
      行動経済学会
  • [図書] 行動経済学の現在と未来2019

    • 著者名/発表者名
      依田高典、岡田克彦(分担執筆:佐々木周作)
    • 総ページ数
      392
    • 出版者
      日本評論社
    • ISBN
      978-4535559097

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公開日: 2021-01-27  

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