研究課題/領域番号 |
19K13723
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
佐々木 通孝 山口大学, 大学研究推進機構, 准教授(特命) (20814726)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 原告勝訴率 / 特許権 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、わが国の特許権侵害訴訟の原告勝訴率が低い要因を実証的に解明することである。特許権侵害訴訟の当事者の訴訟コストが原告勝訴率にどのような影響を与えるかという視点を基に、要因を分析する。 令和元年度は、特許権侵害訴訟の原告勝訴率が低い現象は、知的財産権に関する訴訟全般において見受けられるのか、それとも、特許権侵害訴訟だけに見られる特異な現象なのかを実証的に明らかにすることに取り組んだ。そのために、まず、知的財産権に関する訴訟が提訴され、判決により既済となった事件の中で、判決内容が、どの程度公開されているかの調査を実施し、完了した。わが国の民事訴訟などの裁判は、口頭弁論や判決の言い渡しなどは公開されているが、全ての判決が雑誌や裁判所のウエブサイトに公開されているわけではないためである。 加えて、裁判所のウエブサイトで公開されている、知的財産権に関する判決のデータを抽出し、事前作業としてデータ洗浄を実施した。そのうえで、各判決を特許権侵害や商標権侵害、著作権侵害など、いずれの事件かを峻別し、事件ごとの原告勝訴率を明らかにすることに成功した。また、地方裁判所の判決だけでなく、高等裁判所の判決についても、上記のようなデータ抽出、洗浄、峻別を行い、1審敗訴者における控訴審の勝訴率も明らかにした。1審は、訴訟取り下げや、和解によって既済となるため、判決に至った事件だけを分析しても、勝訴率が低い要因は明らかにならないと予想されるためである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では、初年度は、判決のデータを構築し、特許権侵害や著作権侵害、商標権侵害など、各事件の原告勝訴率を明らかにすることであった。これらについては順調と言える進捗状況である。 地方裁判所の判決データだけでなく、控訴審である高等裁判所の判決データも収集し、データセットを構築した。加えて、わが国では、全ての判決が公開されているわけではないため、知的財産権に関する訴訟では、どの程度、判決が公開されているかも調査した。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究計画としては、わが国の特許権侵害訴訟の理論モデルを組み立てることと、原告勝訴率が低い要因を明らかにすることを予定している。その中で、来年度は、理論モデルに関し注力し、米国の民事訴訟の理論モデルを基礎に、わが国の理論モデルを組み立てる。
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次年度使用額が生じた理由 |
次々年度より、大規模な統計用のデータ構築が必要となるため、年度当初から慎重な研究費執行を心がけた結果、設備については購入を控え、旅費などについて支出が抑えられた。次々年度はデータベース構築と検証作業に多くのリソースを割く必要があり、当初の予定どおり設備などを購入する予定である。
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