研究実績の概要 |
本研究は、わが国の特許権侵害訴訟の原告勝訴率が低い要因を実証的に解明することである。特許権侵害訴訟の当事者の訴訟コストが原告勝訴率にどのような影響を与えるかという視点を基に、要因を分析するものである。 初年度と第2年度、第3年度に掛けて、特許権侵害訴訟や著作権侵害訴訟、商標権侵害訴訟などの知的財産権侵害訴訟について、公開されている第1審の判決と控訴審判決を基に、原告勝訴率を分析するデータセットを構築した。データセットを分析した結果、(1)特許権侵害訴訟は、著作権侵害訴訟や商標権侵害訴訟と比べると、第1審の原告勝訴率が統計的に低いことが明らかになった。(2)一方、控訴審においては、著作権侵害訴訟や商標権侵害訴訟と比べると、特許権侵害訴訟は原告勝訴率が統計的に低いということは言えない結果となった。(3)この結果より、原告と被告における情報の非対称性が、著作権侵害訴訟や商標権侵害訴訟と比べて、特許権侵害訴訟は原告勝訴率が低くなる要因であることを明らかにした。 本年度(第4年度)の実績は以下のとおりである。 (1)原告勝訴率を分析するために構築したデータセットを再構築し、民事訴訟の原告勝訴率の規定要因となるべき項目を実証的に分析した。 (2)特許権侵害訴訟に関する訴訟コストを推計する実証分析を行った。この実証分析の手法は、Bhagat, S., Bizjak, J., & Coles, J. L. (1998). The shareholder wealth implications of corporate lawsuits. Financial Management, 5-27.に記載の方法に準拠した。この実証分析の結果より、訴訟コストが原告勝訴率へ影響を及ぼしている可能性を明らかにした。
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