研究実績の概要 |
2020年度は無裁定理論とフィルトレーション拡大の理論の調査を行った。 前者は、"The Mathematics of Arbitrage (Freddy Delbaen, Walter Schachermayer, 2006)"をもとに関連する論文を調査し、後者は"Random Times and Enlargements of Filtrations in a Brownian Setting (Roger Mansuy,Marc Yor,2006)"を参考にした。 これらの先行研究の調査から、バリア・オプションのモデルに依存しない優複製の研究における優複製の最良性に関する証明の着想を得た。これは優複製戦略に関する下限と確率測度に関する上限が一致することの証明であるが、確率測度の構成にフィルトレーション拡大の理論を用いたもので、既存の証明の別証明を与えるものである。この方法では、ウィナー測度をもとに優複製が完全な複製であるような事象をフィルトレーションに加え、原資産の価格過程が明示的な確率微分方程式として導出される。解も明示的になるため、デリバティブの価格以外にも関連する量が計算可能である。特に、特別な場合の極限を考えることで、Dufresneの結果の特別な場合の別証明を得た。Dufresneの結果とは、ブラウン運動の経路の積分の分布に関する定理で様々な証明が知られている。 またフィルトレーション拡大の理論から、資金調達コストを考慮したデリバティブ価格のモデル化の着想を得た。これは、資金の調達者と提供者の間で情報が異なることにより、それぞれが異なる半マルチンゲール過程を想定するようなモデルである。大まかな考えは研究初年度と同じものであるが、今年度の調査によって、より具体化した。
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