研究課題/領域番号 |
19K13737
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
都築 幸宏 信州大学, 学術研究院社会科学系, 准教授 (00801599)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 3次元ベッセル過程 / フィルトレーション拡大 / Dufresne's perpetuity / ラプラス変換 |
研究実績の概要 |
2021年度は主に3次元ベッセル過程の経路に関する積分の分布について研究を行い、既存の結果を拡張する新しい結果を得て、論文としてまとめた。 これは昨年度に着想を得たDufresneの結果の別証明の手法を拡張したものである。フィルトレーション拡大の理論と優複製の理論でよく使われるSkorokhodのEmbedding定理を応用し、3次元ベッセル過程の経路に関する積分を表現した点が手法としても新しい。この積分のラプラス変換が満たす2階の常微分方程式を導出し、陽的な解を調べ上げた。いくつかの結果を得たが、とくに被積分関数が3次元ベッセル過程の指数関数である場合に既存の結果を拡張した点が最も有意義であると考えられる。 確率過程の経路に関する積分の分布の問題は、研究開始時に予定していた無裁定理論や金融市場モデルとは直接関係はないが、ファイナンスから提案され数学者の間で研究されていた問題である。この分野に貢献したことは価値があると考えられるし、前年度までで得たファイナンスやそれに関する数学の知見が役に立った。とくにファイナンスの優複製の問題を研究しているときに着想を得て、数学者とは異なる発想から積分の問題に取り組んだことが新しい結果に繋がったと考えられる。 また、資金調達モデルについて新たな着想を得た。これは株式による資金調達と自社株買いが株価に与える影響を織り込むモデルである。資金調達や自社株買いでは株価に人為的な影響が加わり通常とは異なる振る舞いをすると考えられる。この振る舞いを確率過程が壁に反射するときの効果である局所時間を使って表現するのがこのモデルの特徴である。このモデル構築のため反射壁がある場合の確率微分方程式の理論を学んだ。 また当初予定していたMalliavin解析の学習も行ったが、上述の反射壁のある確率微分方程式の理論のほうを優先したため最小限にとどめた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度は2020年度末の時点で計画していたことを行ったため「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は、2021年度に着想を得た資金調達モデルを具体化する。 まず、企業が手元資金が尽きた時に株式により資金を調達し、資金が豊富にある場合に自社株買いを行うような場合の株価モデルを構築する。資金調達や自社株買いでは株価に人為的な影響が加わり通常とは異なる振る舞いをすると考えられる。そこでこのモデルでは資金調達と自社株買いが行われた場合の株価の挙動を、確率過程が反射壁に跳ね返される挙動を用いて表現する。この点がこの研究の特徴である。次にこのモデルにおいて、金融派生商品を取引する際の資金調達コストを算出する方法を考案する。このモデルでは資金調達を行うごとに株価が下がり、企業は倒産しやすくなるが、このような効果を織り込んで派生商品の資金調達コストを計算することに新規性があると考えている。最後に、株価から得られる情報が手元資金と合わせて得られる情報よりも少ないようなモデルの構築を試みる。これは投資家は企業の内部情報をすべて知っていないということに対応する。この場合に投資家にとっての金融商品の価格と経営者にとっての価格を比較する。 また、これらの研究の過程で数学的に興味深い問題があれば、その研究も行う。
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