本研究は,転換社債の発行における,証券の設計や契約条項のあり方についての理論分析による解明を課題としている.転換社債の役割に関するこれまでの仮説は,その妥当性について,データによる検証が不十分であった.その原因について,これまでの理論研究が不完全であったことが指摘されている.それらを踏まえ,本研究では,転換社債をはじめとした証券設計のあり方について,理論分析による新しい仮説の提示とその実証的含意の導出,および,企業の資金調達や関連する法制度設計の実務に応用可能な含意の提示を目指した. 2022年度は,(1)ベンチャー企業への投資などの,投資家と起業家の間で事業の生産性に関する情報の非対称性が深刻な状況における転換社債の有用性について,転換制限条項の効果を踏まえた理論分析を進展させた.また,(2)融資契約にあたっての証券設計のあり方が,企業の投資におけるリスク態度へどのような影響を与えるかについて,理論モデルの構築と分析を行った.これら(1),(2)に関する学術誌への掲載等による成果の発表は本課題の研究期間終了後に実施する. 研究期間全体において,上記(1),(2)に加え,2020年度に,(3)需要に不確実性がある寡占市場における,企業の競争戦略に関する研究を実施し,学術誌への掲載および学会報告を行った.また,2021年度に,(4)公共財的性質を持つ海洋資源の管理事業とそのための事業組織構築について,費用の分担とそのための資金調達の側面から経済分析を実施し,紀要論文集に掲載している.
|