本研究の目的は、日本の地域銀行の経営再編が、貸出を行っている中小企業に与える影響について実証的に明らかにすることである。この目的を達成するために、令和三年度は、令和二年度に引き続き、銀行から融資を受けている企業側に焦点を当てた分析についてまとめた以下の二つの論文(いずれも大鐘雄太氏(南山大学)との共著)の改訂を行い、英文の査読付き学術誌への投稿を行った。 第一は、2008年の金融危機に焦点を当てながら「金融機関の健全性が企業の現金保有に与える影響」について検証した論文である。本論文では、2008年の金融危機時に、メインバンクの毀損は企業の現金保有を増加させていたこと、さらに、この傾向はメインバンクとのリレーションシップが不安定な企業で顕著であったことを明らかにした。 第二は、「新規開業企業の資金調達」について検証した論文である。本論文では、銀行合併が新規開業企業の資金調達に与える影響は明らかにできなかったが、他の点について興味深い結果を得た。具体的には、「必要に迫られて起業した起業家」は「事業機会を追求するために起業した起業家」よりも資金調達の問題を持つ確率が高いこと、起業家の人的資本は両タイプの起業家の資金調達の問題を改善することを明らかにした。改訂した論文は、海外の査読付き学術誌Small Business Economicsへの掲載に至った。 本研究課題とは直接的な関係はないが、上記の第二の論文に関連して、必要に迫られて起業した起業家間および事業機会を追求するために起業した起業家間の異質性が新規開業企業の業績に与える影響についても分析を行い、論文としてまとめた(大鐘雄太氏との共著)。
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