研究課題/領域番号 |
19K13749
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研究機関 | 大阪産業大学 |
研究代表者 |
久納 誠矢 大阪産業大学, 経済学部, 准教授 (70774735)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | アルゴリズム取引 / 最適執行 / 投資家行動 / プリンシパル・エージェント問題 |
研究実績の概要 |
自らの大量の株式取引により、価格に影響を与えてしまう機関投資家が、比較的流動性は高いがマーケットインパクトリスク(取引量に対する価格の変化のリスク)を有する東証のような取引所のみならず、比較的流動性は低いがマーケットインパクトリスクがない、いわゆるダーク・プール等の取引所外の取引も考慮しながら株式売買に伴うコスト削減を求める際の最適な執行戦略の導出に関して、以下の3点に着目をして研究を行った。 まず、単一証券について取引所における取引時間後に、取引所外において取引所における終値を用いた取引を予め確約した場合の、取引所取引と取引所外取引の執行配分の特徴づけを行い、Kuno(2019)でまとめた。そこでは、主に取引所外における手数料体系の構築を行っているが、実際の数値に関しては今後の研究としている。一方でKuno, Ohnishi, and Shimizu(2017)における価格モデルを用い、機関投資家が取引所外を用いることにより利益を得ることができないという条件を与えた下で、取引所外における適切な手数料体系の水準を得る事が可能であることを示している。 次に、機関投資家や取引所外の取引の場を提供する証券会社等が非合理的な行動をおこす際の考察を行った。本問題に関しては機関投資家を対象としているものの、一般的な個人についてリスクが身近に迫っている場合と、まだ遠い先にある場合のリスクに対する態度をAnderies, Eisenbach, and Schmalz(2016)をもとに、HDRA(Hrizon-Dependent Risk Aversion)を用い考察した。この結果に関しては現在論文の執筆中である。 最後に、指値注文板が機関投資家の執行量により変化するRosu(2009)モデルを用いて、外生的に与えられていたマーケットインパクト関数を内生的に与え、執行戦略への考察を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
機関投資家のようなバイサイド・トレーダーと証券会社等のセルサイド・トレーダーの間における、いわゆるプリンシパル・エージェント問題に対し、双方の非合理的な行動をおこす仕組みを用いた研究への構想が明確となり、双方が利潤最大化に基づく合理的行動のみをおこす場合以外によるアプローチも生まれ、現在までは機関投資家のみに焦点をあてた考察を行っている。また、機関投資家の取引行動に基づく内生的な指値注文板の特徴付けを行い、本件に関しては、論文にまとめ投稿予定である。この結果を用いて、自らの行動がどのように指値注文板の形成に影響を与えそれが価格形成過程を構築するのかを考察することができ、機関投資家の執行による市場への影響の説明付けが可能となる。更に本研究の結果(内生的なマーケットインパクト関数)を用いて機関投資家の最適な執行戦略の導出への考察を行っている。 新しい着想が、本研究に対して親和性が高いものであるがゆえに、この着想により当初の計画を遅らせるものではない一方で、現段階において計画以上に進展しているとはいえない。
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今後の研究の推進方策 |
取引所外取引における手数料体系に基づき、取引所外において証券会社等が提示する手数料の具体的導出を行う。その際に相場操縦が概念的には可能となってしまうことがあるため、あらかじめ相場操縦が不可能である条件を明確化する。さらに、証券会社が非合理的行動をおこす場合における取引所外取引の社会全体としての厚生のついての考察を行う。 また、内生的な指値注文板を用いた機関投資家の最適執行戦略の導出に関して、現在のモデルにおいては数値の変化に対して非常に不安定な振る舞いをおこすため、まずはVWAP(Volume Weighted Average Price)取引やTWAP(Time Weighted Average Price)をもとにした取引コストの比較を行い安定化を図ったのち、動的計画法による最適執行戦略の導出を行い、その結果をまとめて研究集会で発表し、フィードバックを得て論文にまとめる。
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次年度使用額が生じた理由 |
国内学会及び国際学会が相次いで中止となった。また、内生的な指値注文板の理論モデルの構築にフォーカスをしたためデータを用いたバックテストとその考察には手が回らなかった。次年度においては、構築したモデルをさらに安定的なものとするためにデータを用いたテストを行う予定である。
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