本研究では、2006年以降の株式併合実施銘柄を対象に、株式併合実施前後における株価の変化と流動性の変化を、複数の尺度から実証した。標本期間は併合実施前、実施後、それぞれ1年間としている。流動性の計測には売買代金、売買高だけでなく、日中の取引データを利用したスプレッド(気配・実効・実現)、逆選択コストも計測している。いずれの流動性指標も、銘柄ごとに併合前と併合後の平均値を算出し、流動性の変化を計測している。また、結果の頑健性を高めるため、併合実施企業ごとにコントロール企業と比較した。次に、株価・流動性の変化を被説明変数、銘柄属性を表す説明変数とした回帰分析を行い、株価・流動性の変化と銘柄属性の関係を明らかにした。とくに、「併合前の個人投資家数」と「呼び値の刻み(注文値段の最小単位)」に着目し、株主構成と株価の価格帯が株価と流動性に与える影響を実証している。令和4年度は、昨年度までで完了しなかった新たな流動性指標の計測の計算プログラムの完成に向けて取り組んだ。 本研究の主な結果は次のとおりである。株式併合とともに売買単位100株に変更した売買単位集約目的での株式併合の場合、売買高・売買代金などの取引活動に有意な変化は見られなかったものの、投資家にとって取引コストと考えられるスプレッドを有意に縮小させる効果が見られた。また、実施企業の株価は下落傾向があるものの、売買単位集約目的の株式併合においては下落の幅が小さかった。これは、株式併合単独実施銘柄は市場から嫌厭されていたものの、売買単位集約目的の株式併合の場合には負の反応は穏やかであり、流動性の改善に繋がっていたと判断できる。これらの結果はコントロール企業との比較や別の流動性指標による分析においても頑健な結果であった。
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