研究課題/領域番号 |
19K13751
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
木村 遥介 東京工業大学, 工学院, 助教 (10805592)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 情報効率性 / 情報取得 / 株式市場 / 投資家 / 学習 |
研究実績の概要 |
本研究は、投資家・企業の行動と情報取得・学習過程の関係について分析することを目的としている。経済学やファイナンスにおいて、情報は大きな役割を持っている。すなわち、経済主体は将来に対する予測に基づいてが投資などの意思決定を行い、その予測を形成するために現時点で取得可能な情報を利用する。本研究では、全ての情報が観察可能ではない場合、経済主体が観察可能な情報からどのようにして情報を抽出し学習していくかについて分析する。 投資家の情報を取得する行動に関して理論的な分析を行った。投資家は企業が公開する情報などの様々な情報源から、株価に関連する情報を抽出し、株式を取引する。投資家は、限られた情報処理能力を使って情報について学習し、株式の配当に関する情報の精度を上げることができる。株式の配当が、経済全体に影響を与える要因(市場ファクター)と個別企業にだけ影響を与える要因(個別企業ファクター)から影響を受ける場合、投資家の学習行動は単純ではなくなる。投資家が注意を払うことができるキャパシティは限られており、それを学習効果が高い株式あるいはファクターに配分することが投資家の最適な学習過程になることが先行研究によって知られている。市場ファクターと個別株式ファクターが存在する場合には、市場ファクターに対してより多くの情報処理能力を割り当てることが予測される。その結果、投資家がより市場ファクターに依存して株式の売買を行うことになり、株価の個別企業ファクターによって説明される部分が小さくなる。言い換えると、連動して株価が変動することになる。 インデックスを直接取引するETFのような証券は、市場ファクターにのみ影響を受けると考えられる。このような証券の取引が大きくなると、結果として、個別株式の株価に個別企業ファクターが反映されにくくなり、多くの株式の株価がより連動して動くことを理論的に導いた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度において、株式の配当が市場ファクターと個別企業ファクターに依存して決定されるモデルを構築することを計画していた。実際、このようなモデルを構築することができたため、「おおむね順調に進展している」と判断した。ただし、基本的なモデルが完成したが、追加的な分析(投資家のポートフォリオ内の株式の株価が大きく変化した場合、その株式についてより注意を払って分析しようという行動)が必要と考えられるため、この分析を行った上で論文を完成させる予定である。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度に行った研究では、複数の株式の収益に影響を与える要因(市場ファク ター)を導入したモデルを構築した。ファクターの構造によって、投資家の注意の配分が変わり、結果として、株価の情報効率性に影響を与えることが分かった。しかしながら、投資家が株式の収益に関するシグナルを受け取り、それを学習して得られる予測(期待値と分散)が価格に反映されるため、株価の変動自体が投資家の注意の配分に影響を与えることはない。すなわち投資家のポートフォリオ内の株式の株価が大きく変化した場合、その株式についてより注意を払って分析しようという行動が考慮されていない。この点は実証分析において、投資家の関心に対する外性的ショックあるいはモニタリング能力に対する外性的ショックとして考えられている一方で、対応する理論的なモデルが構築されていない。従って、大きな価格変化が生じた場合に、投資家が注意を再配分するプロセスを理論的に構築することが今後のモデルの発展として計画していることである。 また、本研究の研究計画では、投資家と経営者の情報取得・学習行動について分析を行うことを計画している。2021年度より企業経営者の情報取得・学習行動について分析を進める。投資家と同様に、経営者も情報を取得し、分析することによって将来の状態を予測し、設備投資などの意思決定を行う。従って、2021年度より、経営者の情報取得及び学習行動について分析を行うことを計画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
国際学会での発表を計画し、旅費として計上していたが、新型コロナウイルスのため海外渡航が難しく、使用することができなかった。2021年度も同様のことが考えられるため、旅費として計上していた部分を実証分析に必要なデータの購入に充てるよう計画を変更する。
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