研究課題/領域番号 |
19K13751
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
木村 遥介 東京工業大学, 工学院, 助教 (10805592)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 予測 / 業績予想 / 企業行動 / 設備投資 |
研究実績の概要 |
2021年度は①企業の業績予想に関する実証研究、②企業の情報取得と設備投資に関する理論分析を行った。 ①日本企業は売上高や利益の予想を投資家に向けて公開しており、この情報を利用して投資家は企業の将来の状態について学習し、株式の売買行動を行うと考えられる。しかし、公開される業績予想が「真」の経営者の予想であるとは限らない。例えば、個別企業の事前の予測値と事後的な実績値が外れている状況を考えると、企業が事前に形成した予測値をそのまま公表し、結果として実績値が予測値から外れた場合が考えられる一方で、企業が事前には実績値に近い予想を持っているにも関わらずそれから外れた値を公表し、結果として実績値が予測値から外れる場合も考えられる。私は東京証券取引所上場企業の業績予想のデータを利用して売上高や経常利益の期待成長率を計算し、そのヒストグラムの期待成長率がゼロの点を境界として不連続性が存在し、ゼロよりも大きい領域に期待成長率が集積していることを確かめた。この不連続性は、前年度の売上や利益を達成できないと予想しているにも関わらず、前年度の実績を上回るように予測を公開している企業が存在していることを意味している。この結果は推定された密度関数の不連続性を確かめるマニピュレーションテストを使用して検定によって、複数の多項式の定式化に対して頑健な結果であることが確認された。 ②経営者の学習と設備投資に関するモデルを作成した。このモデルにおいて、企業(経営者)はコストを支払って情報を取得し、生産性の予測をおこなって、投資の計画を立てる。予想しない生産性ショックが生じたとき、この計画とは異なる設備投資を行うことができるが、計画から乖離するとコストが生じるようになっている。このモデルでは高い生産性の企業がより情報取得を行うインセンティブを持っていて、資本の配分に対して影響を持ちうることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
経営者の情報取得と学習行動に関する分析を行うことを計画していたが、このモデルを構築し、論文を完成させることができたため、「おおむね順調に進展している。」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
企業の期待成長率の分布における不連続性は、前年度の売上や利益を達成できないと予想しているにも関わらず、前年度の実績を上回るように予測を公開している企業が存在していることを示唆している。この行動を説明するための理論モデルを構築することを計画している。基礎的な理論モデルでは、経営者が業績について予測を行い、投資家に対してそれを公開するが、ある業績の領域において予測値に関わらず一定の値を報告するような戦略が存在しうることを予想している。これに対して、投資家が公開された情報に基づいて株式を売買することをモデルに取り入れることを考えている。それによって、経営者がパフォーマンスが悪化するという予測と異なる良い業績予想を事前に報告することによるメリットが、良い業績予想を報告したにも関わらず事後的に悪いパフォーマンスが実現することによるデメリットを上回っている状況において、経営者が予測と異なる楽観的な業績予想を公開すると考えられる。したがって、上記のメリット・デメリットの大きさに影響を与える要因について理論的に考察することが2022年度の研究計画である。そして、理論的に予想される要素で業績予想を操作しやすい企業グループと操作することが難しい企業グループに分類することができるならば、その要素を利用して、2つのグループに実際の企業を分類し、そのグループ間で不連続性が異なるのか、あるいは分布が異なっているのかを確かめたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
国際学会での発表を計画し、旅費として計画していたが、新型コロナウイルスのため海外渡航が難しく、使用することができなかった。2022年度も同様のことが予想されるため、旅費として経常していた部分を実証分析に必要なデータ購入に充てるよう計画を修正する。
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