2022年度は①企業ネットワークと共同研究に関する実証研究、②情報に基づいた投資家の行動が企業の投資へ与える影響に関する理論分析について研究を行った。 ①企業は、既存の知識ベースと統合し、イノベーションを促進するために、新しい知識を積極的に探し求める。遠隔地にある斬新なアイデアや潜在的なパートナーを特定するためのコストは相当なものであるため、通常、企業は現在の事業に近接した場所で情報探索する。本研究では、企業間ネットワークにおける戦略的持ち株比率やサプライチェーン関係によって定義される近接性を、従来の地理的・技術的近接性指標と統合し、企業がこのようなネットワーク内で近接する企業との共同研究活動にどの程度関与する傾向があるかを検証するものである。実証分析では、企業間ネットワークにおいて、企業が近接するほど共同研究の発生確率が高いこと、地理的・技術的な遠さによる共同研究発生確率の低下をこれらの近接性が緩和することを示した。また株価を用いて共同研究による特許の価値を計測した結果、単独出願の特許よりも平均的に高い価値を持つことを確認した。 ②ESG評価に連動して投資を行う投資家が市場に参加すると、ESG評価が低い企業の資本コストが高くなりうる。この場合、環境負荷を抑制する技術(グリーンテクノロジー)を開発する潜在的な能力があっても、環境に与える負荷が現時点において大きいために資金調達コストが高くなり、結果として十分な研究開発資金を得ることができない可能性があることを理論的に示した。これはESG評価が現時点における状態を用いて算出されていること、またその評価を利用して投資家が株式の売買を行うことに起因する。このようにグリーンテクノロジーに関する研究開発能力を有する企業が資本市場において排除されないためには、企業の研究開発投資の情報を企業の環境に関する評価に取り入れることが示唆される。
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