本研究の目標は,前近代における日本の賃金データの整備と時系列データの推計と整備,それにもとづく前近代日本の賃労働の分析を行うことである。具体的な作業として,(i) 前近代日本の賃金・物価資料を収集して長期のデータベースを整備すること,(ii) 整備された時系列データベースをもとに賃金労働者の生活水準を推計すること,(iii) 観察された結果にもとづき,前近代日本における賃金労働者の生活水準および労働形態を検討すること,以上の3点の作業が掲げられる。令和3(2021)年度もCOVID-19の流行の影響のため,研究状況のみならず学務も含めて困難な状況ではあったが,(i) および (ii) を中心にデータ編成作業を進め,(iii) 推計と分析を進めた。 古代については,令和2(2020)年度までの成果を踏まえてデータ編成中である。 中世については,令和2(2020)年度に発表した実質賃金推計の見直しをおこない,得られた生活水準の推移が,歴史的国民計算の推計からみた1人あたり総生産とどのようにの関連するかを検討し,論文を執筆中である。 近世・近代初頭については,賃金データの再整備を中心に実施した。特に賃金史の研究が手薄な17世紀について,建築労働者の賃金データの整備を進め,前後の中世と近世後半とを接続し,中近世移行期から近世への賃金の推移を検討し,論文を執筆中である。 以上に加えて,前近代・近代初頭の人口・生産など関連する分野についても複数回の報告を実施した。
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