明治以前における賃金データの推計と整備をおこない,それにもとづく前近代日本の賃労働を概観するという本研究課題の目的は達成した。 長期の賃金の推移を時代ごとの特徴で概観すれば,古代においては貴族層とそれ以外の官人・農民層との間に極めて大きい所得格差が確認された。中世は,京都・畿内地域における米価,熟練/非熟練労働者の実質賃金を推計し,熟練には長期的には貨幣賃金の底上げが,短期的には米払賃金への移行があったが,非熟練には観察できなかった。近世については,相対的な実質賃金の低下が確認されたが,一方で副業による世帯収入や経済成長にともなう労働市場の変化とあわせた分析視角の可能性を確認することができた。
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