本研究の目的は、1970~80年代における国際金融システムの構造転換、すなわちブレトンウッズ体制の崩壊と金融グローバル化への転換が、現在に至る世界的な経常収支不均衡の拡大とどのように関連しているのか解明することにある。2020年度までの研究で、①1970年代に変動相場制に移行した後も主要各国が為替安定を重視していたこと、②経常収支不均衡が拡大していくなか、主要国の政策が不均衡の是正から資本移動の自由化(為替自由化)による不均衡の維持へと転換していったこと、③②の動きとあわせて各国の自由化が進んでいったこと等を明らかにした。 最終年度にあたる2021年度においては、①経常収支不均衡の拡大を可能とした為替自由化の進展過程について、この自由化を主導したとされるIMFの行動に焦点を当てて再検討するとともに、②為替自由化と国際金融システムの変容というマクロ的な現象のなかで、ミクロの主体である企業が抱える為替リスクがどのように変化してきたかについて検討を進めた。その結果、①為替自由化の推進においては、アメリカなど大国の意向を重視する通説と異なり、専務理事を筆頭とするスタッフ部門の役割が大きかったこと、②為替自由化によってリスク管理の手段が多様化したにも関わらず、現在に至るまで企業の為替リスクは増大傾向にあること等を確認した。①の成果の一部は国際ワークショップの場で発表した。②については、今後、企業データを用いた実証分析を展開する計画である。 本研究期間全体を通じて得られた分析結果の意義は、①主に為替相場との関連で分析されてきた経常収支不均衡の要因について為替自由化という新たな視点から解明したこと、②これまで十分に明らかにされてこなかった為替自由化過程について歴史実証的な視点から検討した点にまとめられる。
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