研究課題/領域番号 |
19K13757
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
矢島 桂 富山大学, 学術研究部社会科学系, 准教授 (20707103)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 昭和恐慌 / 資本市場 / 朝鮮殖産銀行 / 山一証券 / 植民地投資 / 資本輸出 / 経済政策 |
研究実績の概要 |
本研究は,日本による朝鮮への資本輸出と朝鮮からの食糧輸入とを連関的に把握し,昭和農業恐慌の深刻化を朝鮮の植民地化に要因の一つを求めて検討していくものである。その際の実証的な課題は,植民地投資(資本輸出),植民地米移入,米価対策としての植民地米移入対策と設定される。 昨年度,植民地投資についての成果として,論文「朝鮮殖産銀行による産業金融の展開と山一証券-不二興業・金剛山電鉄・朝鮮京南鉄道-」(『社会経済史学』86巻4号)が得られた。そして今後の課題として,①殖産債の保有構造の解明,②昭和恐慌下の朝鮮農業の考察,③日本による植民地米移入対策の検討が残された。 本年度は,この①の課題に接近する研究として,殖産債の発行・引受・保有の解明と,それに関わる山一証券など証券業者の引受業務の検討について,研究成果を論文として発表する準備を進めた。ここでは銀行を中心に金融機関の営業報告書などの資料の分析から,殖産債発行残高の約40%の保有者を把握した。また殖産債の証券業者による引受シンジケート団の構成や引受形態の変遷を検討し,証券業者による公社債引受での協調と競争について分析を行った。この論文は次年度に公刊予定である。また殖産債の保有構造の解明と合わせて,東洋拓殖株式会社(以下,東拓)の債券(以下,東拓債)の保有構造についても調査を進めた。日本の対朝鮮投資の主要経路である殖産債と東拓債の保有構造の解明により,対朝鮮投資の資金源泉が把握でき,日本の植民地投資の分析が進むことが期待される。②と③の課題については,日本及び朝鮮の農業と農業政策に関する史料の整理・分析を進めた。またCOVID-19の影響のために国内外での関連史料の収集ができなかったが,次年度に向けてその準備を行なった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
COVID-19の影響のために,韓国での史料調査や国際シンポジウムへの参加が叶わなかった。またCOVID-19の感染拡大状況や,所属機関の移動制限地域の設定,及びその時々での状況の変化のために,国内の史料調査・収集が著しく難しくなっていた。このため研究計画は大幅に変更を余儀なくされ,想定した進捗よりも大きく遅滞することになった。 ただし,そうした状況においても,日本及び韓国の国公立図書館のオンラインサービスや,韓国の新聞データベースなどを利用することで,史料収集に進捗があった。また昨年度に協力を得て遠隔地で収集した史料の分析を進めることができた。それにより今年度は,殖産債の発行とそれを引受けた証券業者の活動について,研究の進捗を見ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
今年度までに収集した金融機関の営業報告書などの史料をもとに,前年度で確認された課題①殖産債の保有構造とともに,東拓債のそれについても解明を進めていく。殖産債の保有構造の分析については,すでに成果を公表する段階にある。この過程で東拓債の保有構造も同時的に分析を行なってきた。次年度も引き続き分析を進め,殖産債と東拓債の保有構造を解明することで,本研究の実証的な課題であった植民地投資(資本輸出)について,対朝鮮投資の主要部分の把握が可能となる。 COVID-19の蔓延状況は改善の兆しが見えないが,移動制限などは漸次緩和されている。こうした状況において,次年度においては国内での史料収集が可能となると見通し,県外の大学や図書館,国会図書館,農林水産関係試験研究機関図書館などでの史料収集を予定している。また今年度に引き続いて,日本及び韓国の図書館のオンラインサービスや韓国の新聞データベースを用いて史料を収集する。これをもとに,前年度の課題②昭和恐慌下の朝鮮農業の考察,③日本による植民地米移入対策について研究を進めていく。②については,朝鮮総督府などの史料や新聞記事をもとに農業生産や小作争議,抗日運動について検討を加えていく。③については米穀調査会(1929-30年),米穀統制調査会(1932-33年),米穀対策調査会(1934-35年)の議事録や,関係史料,及び新聞記事をもとに朝鮮米移入規制をめぐる議論とその帰結を考察していく。 以上により日本の朝鮮への資本輸出と,朝鮮からの米穀移入を連関的に把握し,そのために昭和農業恐慌が深刻化する一因となっていく,そうした日本の帝国経済の構造の分析を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度も前年度に引き続き,当初計画していた韓国での史料収集及び国内での史料収集が実行できなくなったために,旅費とコピー費用が支出できなかった。また学会や研究会もオンラインで開催されるようになったために,参加にあたって旅費がかからなかった。 次年度は国内での史料収集が見通せるため,この費用とする。
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