本研究は,日本による朝鮮への資本輸出と朝鮮からの食糧輸入とを連関的に把握し,植民地支配から昭和農業恐慌の深刻化の要因を問うことを目的として設定した。研究開始時に実証的課題として,①植民地投資,②植民地米移入,③米価対策としての植民地米移入対策を挙げた。2021年度までに①に関する研究が進捗し論文の発表に至り,最終年度の2022年度には,残された論点として②・③について昭和恐慌下の朝鮮農業と日本による植民地米移入対策の検討に取り組んだ。この論点をめぐって,昭和農業恐慌下でも朝鮮米移入が継続された背景・構造を考察し,結論を得た。これにより当初の目標におおよそ到達したと言える。 研究期間全体を通じた成果は,主として論文3篇(うち未公表1篇)にまとめられた。①植民地投資に関しては,日本資本市場における殖産債(朝鮮殖産銀行発行の債券)の日本資本市場での位置づけ,この引受を担った証券業者の競争と協調を示し,金融機関の保有から日本の対朝鮮投資の実態に接近した。殖産債は朝鮮での農業金融の中核的役割を占めた朝鮮殖産銀行の資金源泉であり,この保有構造の解明により,朝鮮米移入と資本輸出の有機的連関を把握したことで,帝国経済構造に関する認識をさらに具体化させた。②植民地米移入・③植民地米移入対策について,昭和農業恐慌前夜にも朝鮮農業の危機と農業金融の不良化が進行していたことを確認し,それを背景として日本の米価対策として朝鮮米移入制限が議論されたが回避されたことを示した。その結果,昭和農業恐慌下でも朝鮮米が大量に移入され,米価を押し下げて恐慌をさらに深刻化させることとなった。そしてこのことから,昭和農業恐慌の深刻さの一端は,日本の朝鮮米移入が,朝鮮での「産米増殖計画」実施下で,産業開発による植民地支配の安定と,帝国経済構造に組み込まれていたことによりもたらされたことを結論として得た。
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