本研究は、近世イタリア都市ヴェネツィアを事例に、都市の主たる福祉を担った俗人宗教兄弟会について、会が形成したアーカイブズの展開から導き出される財政運営と組織、及びその時期的な変化を解明し、これを兄弟会の16・17世紀の長期的な財政実態の推移との関係性の中で分析することで、近世ヴェネツィア都市社会における福祉のガバナンスの一端を明らかにしようとするものである。 初年次は、新型コロナ・ウィルスの流行により一部実現できなかったものの、現地イタリアの国立ヴェネツィア文書館で、研究に必要な一次資料の収集に努めた。特に、兄弟会が形成したアーカイブズの具体的な展開を解明するには、兄弟会が作成した記録文書の全体像を把握することが欠かせない。そのためには、兄弟会による記録文書の整理や管理方法を理解することが肝要となる。そこで、第1に、記録文書の整理、保存、管理に言及した資料類の調査と収集に努めた。その上で第2に、兄弟会の財政的な実態を理解するために必要な、16・17世紀の会計帳簿や資産管理に関わる資料について、兄弟会のみならず、都市の資産管理担当局の資料群も対象に含めて調査・収集に努めた。 国内では、収集資料の分析、及び分析結果の公表に努めた。研究会発表の機会を活用して、16世紀以降における兄弟会の資産運営と財政状況の推移について報告し、財政的実態への理解進展に努めた。さらに、兄弟会の<アーカイブズ実践>を考察する試みとして、兄弟会による記録文書の整理や管理の様相を検討した成果が、学術誌に査読付き論文として掲載された。 2年次は、初年次の状況を踏まえて、①未収集資料の入手、②入手資料の内容分析、③各カテゴリーの資料の相互連関について考察を進めることを課題とした。しかし、本務先が科研費の統括機関である文部科学省になった関係で、研究継続が難しくなり、継続の道を模索したものの断念することとなった。
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