本研究では,ラグジュアリー・ファッション・ブランドを対象とした顧客の知覚価値にかんする探索的な検討を行った.二つのフェイズで研究を進めた.最初の研究では,ラグジュアリーブランドでの購買経験を有している顧客を対象に,店舗での知覚価値の評価を説明変数,再来店意向を目的変数とした相対的な影響を明らかにした.また高評価の要因は,定性データから定量的に分析を行った.結果的に,美しさ・豪華さなどの物的要素は直接的には顧客の再来店意向には影響をおよぼさないことが示された.しかし,物的要素は,直接再来店意向に影響をおよぼす誠実さや説明などの人的要素に影響をおよぼすことがわかった.さらに,顧客の高評価と低評価の比較において,最も重要なのは販売員の質問の質と共感力であることが示された.既存研究ではラグジュアリーブランドにおいては人的なサービスよりも物質的な要素の影響の方が大きいとされている.さらに,従来の研究では,知覚対象に対する顧客の知覚経験量が考慮されておらず,また欧米人と東アジア人の知覚の違いが指摘されながらも,ラグジュアリーブランド研究は欧米の調査にもとづくものが主たる研究結果として認識されている.本研究の学術的意義は,以上のことから,日本というラグジュアリー・ブランドが比較的飽和した国における初めての包括的な顧客の店舗体験要素の相対的影響を調べた研究ということである.二つ目のフェイズは,ラグジュアリーブランド,つまり快楽主義的ブランドと,功利主義的ブランドのエンゲージメントが維持される要因についての検討を行った.本研究は,コロナ禍により,小売環境・企業に混乱があり,従業員と組織の関係の調査は保留中である.しかし,上述した消費者にかんする研究を深め,加えて,地元の伝統産業に目を向け,伝統産業が地域・消費者と価値共創し,新たなエコシステムを形成する事例研究を行った.
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