研究実績の概要 |
最終年度は以下の研究を実施した。 研究実施計画(1) の「経営者支配論の再評価」では、Adolf A. Berle Symposium on Corporation, Law and Societyで発表された論文(Seattle University Law Reviewに掲載)を検討しバーリ&ミーンズ理論の現代的意義を分析した。 (2) 「機関投資家支配論の批判的検討」では、株主アクティビズム論の限界を以下の6点にわたって明らかにした。第1に個別の機関投資家は十分な議決権を有していないこと。第2に一部の大手機関投資家のみが行なう株主提案も企業への直接的な影響力を持っていないこと。第3に株主アクティビズムの基礎とされるインデックス運用比率は機関投資家全体からみれば数が少ないこと。第4に、インデックス投資はその運用コストの面から見ても株主アクティビズムに消極的であること。第5に、機関投資家は経営者の報酬に対しても規制力を発揮できていないこと。第6に企業支配論の要でもある経営者の更迭に関しても機関投資家は影響力を有していないこと。 (3) 「アメリカにおける株主配分増加の背景」では、企業利潤の低迷と経済の停滞にたいして行われた経済規制の緩和によって、M&Aの増加とストック・オプションの拡大が生じ、これらの要因によって「経済の金融化のもとでの経営者支配」の構造が生じたことを明らかにした。 (4) 「日本における株主配分増加の背景」では、前年度の研究をふまえて日本におけるコーポレート・ガバナンス改革は、「経営者支配」から「株主支配」への転換ではなく、経営者支配の強化のもとでの経営戦略の転換であることを明らかにした。 以上の成果は、柴田努『企業支配の政治経済学:経営者支配の構造変化と株主配分』日本経済評論社、2020年として発表した。
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