本研究の目的は、企業家の語りに着目した質的方法として、起業と経営についての二人称的アプローチの有用性を検討することにある。この目的を達成するために、以下の3点を行った。第1に、一人の連続起業家との対話を繰り返すこととその対話の逐語記録を作成することである。第2に、蓄積された対話の逐語記録から起業と経営についてのプロセスのモデルを生成することである。第3に、プロセスのモデルが生成された文脈として、起業家と研究者との関わり合いのプロセスを記述することである。 本年度は、当初の計画通り、以下の3点に取り組んだ。 (1)連続起業家の乃村一政氏との対話の実施とその逐語記録の蓄積を行う「ことばの交換」は、2011年4月21日から2023年3月までに計51回を実施した。今後も本調査を継続予定である。また、今後は、他の起業家や投資家との対話も実施予定である。 (2)2023年3月11日に開催された企業家研究フォーラム設立20周年記念シンポジウムで「企業家研究と語りの共同生成:『カード』を媒介にした経営実践への関与の可能性」と題する招待講演を行った。 (3)「同床異夢の成立プロセス:ベンチャー企業による制度的複雑性への対処」(共著)と題する査読付き論文が学術雑誌『Venture Review』第40号に掲載された。
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