本研究では,近年の日本企業における多様な人事施策の実態を把握し,従業員の受容する公正で倫理的な処遇について検討してきた。近年の法改正等の社会的背景から企業が実施する人事施策についても多様性が見られる。種々の人事施策の機能性や効果について,学際性を持った文献研究と,組織での実際を調査した分析結果から,理論的・実証的な研究を行ってきた。具体的には人的資源管理論や組織行動論の観点から,日本企業の人事管理制度を概念整理し,関連する諸分野の知見も考慮した上で実際の制度とこれに対する従業員の受容のメカニズムを解明し,多様な人事施策と従業員の受け止め方に関する理論構築を目指すものであった。 4年目は,過年度同様に文献調査,文献渉猟を基礎とした概念的検討を中心に,とりわけ従業員の働き方の指針の基礎となる人事評価の機能と効果について,既存研究におけるレビューをもとにした理論的考察を行い,その研究成果の一部を論文として完成させた。具体的には,人事管理でも近年とりわけ重要性の指摘されているワークライフバランスに関して,その受容の状況が組織的公正といかなる関係性にあるかについて,理論的な検討を行った上で,企業における質問紙を用いた実態調査の結果を用いて実証的に分析した。結果として,ワークライフバランス施策が従業員の知覚に及ぼす影響は,その人事施策の対象者の範囲に依存し得ること,また公正性の知覚を高める効果が,ワークライフバランスの恩恵を受けやすいかどうかに依存することが示唆された。この結果は,従来ワークライフバランスが育児休業や短時間勤務,あるいはテレワークといった手段で行われる場合に,主として就業継続を目的とした女性従業員向けの施策として実行されてきた点を指摘するものであり,今後多様な人事施策が展開される場合に,より制度導入の意図を明確にする必要なあることを意味するものでもある。
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