本研究では、イノベーションの発生に対して組織の「形」と「広さ」がいかなる影響を与えるのかについて探究していった。研究期間全体では、イノベーションが発生しない組織の中には、実際にはアイデアも資源も十分に保持している場合があるという発見があった。すなわち、アイデアと資源があるのにも関わらずその2つが「出会わない」ことこそがイノベーションの阻害要因なのではないかという視点が得られたのである。さらに、本研究の最終年度では、資源とアイデアの滞留という上述の問題を解決するようなマネジメントのあり方についても研究を進めた。たとえば、サプライヤー参加型の小集団改善活動であるトヨタ自主研において、トヨタ自動車は、サプライヤーを巻き込んだ自主研活動を進めるにあたり、「他の組織の命令系統に関与せずに学習における注目箇所をコントロールする」という特殊な形のリーダーシップを発揮したことなどが判明した、その一方で、サプライヤー側は、こうしたリーダーシップの裏に「自主研活動に失敗したら、今後、注文をもらえなくなる」という圧力を感じてもいた。すなわち、トヨタ自主研活動は、指揮命令系統に従う公式組織と、和気藹々としたサークル的な非公式組織との、中間形態であったことなどが分かった。筆者らが『生産管理』誌にて発表したこの研究では、こうしたマネジメント方法こそが、組織間での知識共有・知識創造を促進していた可能性が明確となった。
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